「はぁい、」
「ねえ、その瞳、見えているの?」
 突然目の前に現れたがいつものセリフを言う前に、紅玉はこれまた突然問いかけた。その瞳は、の深緑の瞳に浮かぶ銀色の星を見据えている。
「君が見えていると思うのならぁ、見えていてー、見えていないと思うのならぁ、見えていませんよぅ」
「つまりそれって見えているのかしら?」
「姫君、そいつに何を訊いても無駄であります。こいつは自分のことに関してはいい加減なことしか言わないんですから」
 これまたの突然の登場にも驚かず淡々と述べた夏黄文。なんだかんだで一番順応性の高い主従ではないだろうか。革のポーチからややくすんだ黄色で宛名が書かれた封筒と、華やかな桃色で宛名が書かれた封筒を取り出しながら、はやれやれと首を振る。
「夏黄文君はぁ、野心に反比例して夢の無い子ですねー。箱の中の猫は生きているのか死んでいるのかぁ、それは箱を開けるまで判らない話でーすよーう」
「……つまり?」
「この目は見えているしー、見えていないってことでーす。誰かがこの眼を刳り貫くまでは、ですけどぉ」
「さっぱり解らんぞ鳥頭」
「まあそんな話はともかくぅ、ルフの宅急便でーすよぅ。今なら大出血セールで受信無料でーすよー」
 やっといつものお決まりの文句と共に差し出された封筒を、紅玉と夏黄文は受け取った。夏黄文は封筒を懐に注意深くしまい込み、紅玉はその場でわくわくとした表情で封を切る。
舞飛ぶ白いルフたちに、紅玉は目を細めてふふっと笑った。
「ご機嫌ですねー、紅玉君ー」
「ええ、だって、もしかしたらこの中にあの方の想いも込められているかもしれないもの!」
「あの方ー?」
 が首を傾げれば、紅玉は透ける紅色の瞳を輝かせ、夏黄文はそっと紅玉から目を逸らした。
「ええ、もうすぐ会いに来てくださるのよ! もしかしたら貴方も知っているのかしら、知っているわよね、だってあの方も王だもの! ねえ、この封筒の中にあの方の想いは入っていたの? シンドバッド様の想いは、入っていたかしら!」
「……シンドバッド君はぁ、確かにお届け先のひとつでーすよーう。その中身についてはぁ、守秘義務があるので確かなことはなんとも言えませんけどぉ、」
 シンドバッドと紅玉はいつ知り合いになったのだろう、と首を傾げながら、はぱちくりと瞬きをする。そして銀色の星をそっと紅玉から逸らしつつ、ここは傷付きやすい乙女心を守ろうと決めて口を開いた。
「君が入っていると思うのなら入っていてー、入ってないと思うなら入ってないでーすよー」
 
150723
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