「はぁい、こんにちはぁ、相変わらず陰気な仮面の君にぃ、ルフの宅急便ー。今なら大出血セールで受信無料でーすよー」
「……鳩頭か」
「そーうですよーぅ、知っている人は知っているー、知らない人も知っているー、皆さん大好き鳩の宅急便でーす。あ、違ったルフの宅急便でしたぁ」
「…………」
「せめて何か言ってくださいよーぅ、イスナーン君ー、鳩は寂しいと死んじゃうんでーすよー?」
「それは兎だろう」
「まあ兎も別にー、寂しくても死なないらしいですけどー、むしろ兎のようにぃ、繊細な生き物はー、ほっといてあげた方が良いとも言いますねー」
 いつも通りの緩慢な口調で封筒をガサゴソと取り出す。くすんだ金色で縁取りがされた黒のインクで宛名が書かれた封筒を、はピッと差し出した。
「君はー、お名前が変わってなくて助かりますよーう。住所不定なのは困りものでーすけどー」
「届けなければいい話だ」
「そうはいきませんー、私が届けられないのはぁ、住所不明であって住所不定ではありませんしぃ、そこに宛先がある限りー、たとえ火の中水の中ー、ルフの宅急便でーすよーう」
 頭が痛いという顔をしつつ、それでも封筒を黙って受け取るイスナーン。彼はそれをその場では開封せず懐に仕舞う。けれど大切な兄弟の哀しみをも運ぶその封筒を彼が一度たりとも捨てずにいることを、彼女は知っていた。
「では確かにお届けいたしまーしたよーう」
 くるりと踵を返すを、イスナーンは呼び止める。きょとんと瞬いた銀色の星に、イスナーンは問いかけた。
「お前は憎くないのか、恨まないのか」
「……今の私は偉大な王の端末に過ぎませんよーう、憎いだの恨むだのは、ここにいる人間のお仕事でーすよー」
 緑の瞳の中で星が落ちる。それ以上は引き留めなかったイスナーンの目の前から、一瞬での姿はかき消えた。
 
151024
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