「平和とはぁ、亡骸の頂に咲き誇る花のようなものでーすよぅ」
「……つまり?」
「この平和の象徴のごとく無垢な鳩たる私の足元にもー、きっと幾千の想いの骸が横たわっているのでーすよーう。あなたの足元にもぉ」
「あなたはレームを嫌っているのか?」
「いえいえー、決してぇ、そのようなことはー、ありませんよーう。私はただー、事実を申し上げているだけでーすよー」
 鮮やかな緋色のインクで宛名が書かれた封筒を受け取って、ムーは溜め息を吐く。皮肉ですら無いのだから余計に性質が悪い。ぷらぷらと脚を前後させながら唄うように語るに、ムーは菓子を投げてやった。わーいと喜んでそれを受け取ったは、早速包みを開いて菓子を食べ始める。
「甘味は素晴らしいでーすねー。人間の生み出したぁ、文化の極みですよーぅ。ありがとうございますー」
「そうか、それは良かった」
「そんないい子のムーくんにはー、この平和の象徴たる私からぁ、小さな幸せをお裾分け致しましょーう」
 もぎゅもぎゅと菓子を頬張りながら、は右手の人差し指を立ててニコリと微笑む。そんなサービスは聞いたことがないな、と冗談めかして言ったムーに、は時間外労働ですよー? と悪戯っぽく返した。
「あそこで恒例の喧嘩をなさっているー、ロゥロゥくんとミュロンくんー」
「何!? またなのか!」
 の指差した方向を見れば、少し離れた建物の中でいつもの二人の乱闘が起こっていて。ガタッと立ち上がったムーをまあまあと気の抜ける声で制して、は言った。
「お二方の喧嘩をー、平和的に解決して差し上げますよーう。というわけで、えいやあ」
 次の瞬間、ぽんっと音がしての姿はムーの前からかき消える。そして同時に、取っ組み合っていたミュロンとロゥロゥの間に、ぼむっと音がして色とりどりの煙が現れた。
「!!?」
「はぁい、こんにちはぁ。ルフの宅急便でーすよぅ。今なら大出血セールで受信無料でーすよー」
 煙が晴れて二人の手元にぽふんと落ちたのは、それぞれに彩度の異なる緋色で宛名の書かれた封筒と、大きな花束。すっかり毒気を抜かれてぽかんとしているファナリス二人の前に立って、は一部始終を呆然と見ていたムーにひらひらと手を振った。
「ささやかながらぁ、鳩の恩返し、でーすよー」
「…………」
 これからは毎回喧嘩が起きる度に菓子を供えたらが来てはくれないだろうかと、そう思ってしまったムーであった。
 
160911
ネタ提供:ルフの宅急便でマグノシュタットやレーム帝国編
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