の兄は、優しくて何でもできて、そしてとても格好いい人だった。あまりに自分と隔たりがあるように感じて、「もしかして血が繋がっていないのでは」と馬鹿なことを言って泣くを撫でて、「俺はのお兄ちゃんだよ」と笑ってくれる人だった。
「お兄ちゃん」
 兄は覚えの早い人だった。まだ小さいうちから大人顔負けに読み書きや計算ができていて、普通の子どもであるは兄のように字を書けるようになりたくて、兄からもらった紙とペンを持って兄の元へと押しかけた。
「字を教えてほしい? は偉いな」
 を膝の上に座らせて、ランスロットは丁寧に字の書き方を教えてくれた。ペンをぐっと握り締めるの手を上からそっと包み込んで、一文字一文字根気よく練習に付き合ってくれた。下手くそでぐしゃぐしゃな字を、上手だと褒めてくれた。
「お兄ちゃん、」
 ランスロットほどではないものの、はそれなりに頭が良かった。一度本を読めば理解できるランスロットとは違って、何度読んでもわからないことがあるは、少し恥ずかしそうにしながらランスロットの部屋のドアを叩いた。
「もうこんな本まで読んでるのか。は賢いな」
 今のより幼いときに同じ本を読破していたにも関わらず、兄はの頭をよしよしと撫でて部屋に招き入れてくれた。柔らかいクッションをに譲って、が解るまで本の解説をしてくれた。疑問が解けて顔を輝かせるを、可愛いと褒めてくれた。
「お兄ちゃん……!」
 ヴェインと木の枝を持って森に遊びに行くというランスロットの裾を、思わず掴んでしまった。ランスロットが誕生日にくれたぬいぐるみを片腕にぎゅうっと抱き締めたままのを、ランスロットはきょとんとした顔をして見下ろした。置いて行かないで、と言いあぐねて泣きそうな顔をするに、ランスロットはふわりと笑った。
「なんだ、も一緒に遊びたいのか? は可愛いな」
 ランスロットはの手を引いて、一緒に森へと連れて行ってくれた。この年頃の男児にとって妹は鬱陶しいと思っても仕方ないはずなのに、ヴェインもランスロットもがついていけるような遊びにしてくれた。
「お、にいちゃ……」
 ぐすぐすと泣きながら帰ってきたに、ランスロットは血相を変えて駆け寄ってきた。近所の心無い男の子にぬいぐるみを取られてしまったと泣きじゃくるを、兄は優しく抱き締めてくれた。
「可哀想に、。もう大丈夫だぞ。お兄ちゃんが助けてあげるから」
 泣き疲れて眠ってしまったが翌朝見たものは、にこにこと笑って取り返したぬいぐるみを差し出すランスロットの姿だった。何度も何度も感謝の言葉を繰り返すに、苦笑を浮かべるランスロット。その日から近所の男の子はを見てもそれまでのように揶揄うことなく、そそくさと逃げるようになったが、はそれに気付かなかった。
「お兄ちゃん……」
 ランスロットが騎士団に入ってから、はたまの帰省の日に料理を出すようになった。その日はランスロットの好きな料理を作ろうと張り切ったのに、焦がしてしまって。おろおろと鍋を見下ろすに微笑んだランスロットは、何でもないような顔をしてそれを自分の皿に盛った。
「うん、おいしいよ。はいいお嫁さんになるな」
 ニコニコと笑って、ランスロットはその細い体つきからは考えられないような量をひょいひょいと食べていく。あっという間に鍋を空にした兄は、ごちそうさまと言って皿洗いを手伝ってくれた。並んで立つと、小さな頃から感じていた体格差が余計に際立って感じられた。まだまだ子どもな自分と、凛々しい青年になった兄。は少しだけ、寂しいと思った。

「おにいちゃん……?」
 寝起きでぼうっとしながらも、確かな兄の気配を感じてはむにゃむにゃと兄を呼んだ。なんだか体が熱いし、それにお腹のあたりが痛くて苦しい。段々と意識が浮上していくにつれ、ますます痛い感覚がはっきりとしてきて。うまく身動きがとれずにもぞもぞとしていると、覆いかぶさるようにランスロットがのしかかってきた。兄の体の重みでますます動けなくなって、は自分がうつ伏せになっていることを知覚する。固いベッドに押し付けられる胸が苦しくて仰向けになろうと身を捩らせると、湿った息を吐くように呻いたランスロットがそれを阻んだ。
……」
 ただ名前を呼ばれただけなのに、ぞわりと肌が粟立った。聞いたこともないような兄の声は低くて甘く、ぞっとするような響きがあって。ようやくまともに覚醒しただったが、圧迫されている胸が苦しいのと体が熱いのとで頭がうまく働かない。
「お兄ちゃん、どうしたの……?」
、起きたのか、ごめんな」
「お兄ちゃん……? ねぇ、くるしいよぉ……」
「ごめんな、。ごめんな」
 ぐっと、腹の底を押される感覚がした。息が詰まって、思わずシーツをぎゅっと握り締めて目を瞑る。ランスロットの荒い吐息が耳にかかって、兄が自分に顔を寄せているのだとわかった。はぁはぁと熱のこもった呼吸の合間に、兄はごめんと繰り返す。高く突き上げるように持ち上げられた腰をゆさゆさと揺さぶられて、何か硬いものがのお腹を圧迫している。それが痛くて苦しくて、きっとその原因はランスロットのはずなのに、が苦しいと訴えてもどうしたのと問うても「ごめんな」としか答えてくれない。ぐちゃぐちゃという音が、掻き回されるお腹が、怖くてたまらなかった。
「お兄ちゃん、いたいよぅ……」
「ああ、ごめんな。痛いよな、初めてだものな、ごめんな」
「あぅ、は、あ……」
「痛いな、ごめんな。痛くしてごめんな? でも、必要なことだから、我慢しような」
「お兄ちゃん……?」
 兄が腰を揺さぶるたびに、硬いそれがお腹の奥を突く。痛くて苦しくて熱くて気持ち悪くて、は自分が兄に何をされているのかも理解していない。まだ恋も知らない妹を犯して笑うランスロットは、無垢なが流す血を見て笑みを深める。
「ああ、本当に初めてだ、嬉しいな、」
 わけもわからずに揺さぶられて苦しいと身を捩らせるを押さえつけて、より激しく奥を打つ。白い背中が反って、髪に隠れていた白いうなじが露わになった。可哀想な妹は、今自分が兄の陰茎を受け入れていることもわからない。何も知らないまま純潔を散らした哀れな妹の腰を両手でしっかりと掴んで、何度も腰を打ち付けた。
はどんどん可愛くなるな。俺はずっと、それが、不安で、」
 小さい頃からずっと、愛情を注いで大切にしてきた。はランスロットの一番の宝物だった。たかだか同い年の近所の少年などに、不器用な恋心から傷付けられて許せるわけもなかった。の全部を、一番近くで見てきた。ずっとランスロットのものだった。ならばその初めても兄である自分のものだろう。破瓜の血を見る権利も自分のものだろう。その白い肌が紅潮する様も、びくびくと震えて喉を反らす様子も。全て自分が手にすべきものだ。だってランスロットは、の兄なのだから。
「ごめんな、まだは、子どもでいたいかもしれないけど、」
 限界を迎えたランスロットは、の尻を鷲掴みにしてぐっと自分の腰を押し付ける。どろりと広がる液体を奥まで注ぎ込むように、ぐりぐりと最奥を穿った。
「あ、ぅ……」
「これでも、可愛いお母さんだな。俺とみたいな、仲の良いきょうだいを作ろうか」
 周囲と比べれば華奢とはいえ、とは比べるまでもなく立派な青年の体格であるランスロットの好きなように揺さぶられて、にはほとんど体力が残っていなかった。朦朧とする頭に、ランスロットの笑うような吐息が素通りしていく。脚の間が痛くて、お腹も痛くて、息がうまくできなくて、開きっぱなしになってしまう口からは荒い呼吸と力無い声ばかり漏れていく。ふう、と溜め息を吐いたランスロットが、の腹を優しく撫でた。
、わかるか、お兄ちゃんとの子どもが、ここにできるんだぞ」
「こど、も……?」
「そう、俺との赤ちゃん。きっとすごく可愛いんだろうな」
 楽しみだ、と笑うランスロットが、まるで知らない人のようだった。ただただ苦痛で、現実を受け止めきれない。今まで一度だってを傷付けたことなどなかったランスロットが、最低と罵っても足りないような無体を強いているなどとにはわからなくて。頭がぼうっとする。そういえば、ランスロットにぶどうジュースだと言われて飲んだそれにひどく噎せてしまって、それでもランスロットが勧めるから頑張って全部飲んだけれど、急にクラクラして倒れてしまったことを思い出す。酔わされて意識を失ったところを犯されて、まだ酔いの抜けていないは思考力が低下しきっていた。頭の回らないに、ランスロットは何度も繰り返しごめんなと謝る。けれどその声はひどく楽しそうで、それが何だかちぐはぐだった。熱の篭った頬や額に、ランスロットの手が触れる。いつもはひんやりと冷たい掌が今はとても熱くて、浮かされるようには「お兄ちゃん」とランスロットを呼んだ。
「大好きだ、、愛してる」
「わたしも、お兄ちゃん、すきだよ……?」
 ぼんやりと返した言葉が兄の求める意味とはかけ離れていることも知らずに、は重い瞼に逆らえずに目を閉じる。おやすみと笑ったランスロットが放った熱が胎に宿すものの意味も、は知らないままだった。
 
171227
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