思えば兄のヴェインは、が物心ついた時には既にを溺愛していた。当たり前のように手を繋ぎ、ハグをして、頬や額にキスを受けて。の視界に映るヴェインの笑顔は、いつだってへの甘い愛情で蕩けていた。
はヴェインの小さい頃によく似てるよ」
 兄の幼馴染は、そう言って笑った。
「小さいヴェインが女の子になったらこんな感じかな、って思うくらいに似てる。今のヴェインと比べたら、そうでもないけれど」
 年の離れた兄妹だから、はヴェインの幼い頃をほとんど知らない。小さい頃の兄は背丈も低くて、華奢で臆病で、幼馴染であるランスロットの後ろをいつもついて回っていたそうだ。確かには背丈も伸びなくて体格も貧相で、いつもヴェインの影に隠れている。快活で体格の良いヴェインと較べてまるで似ていない兄妹だと、よく言われた。
はあまり大きくならなかったからな。でも、女の子だし可愛くて良いんじゃないか?」
 青い大きな瞳、癖のある金髪。童話に見るお姫様のような可憐な容貌。むしろ兄のように大柄に成長しなくて良かったのではないかとランスロットは思う。華奢で愛らしいは、造りの丁寧なお人形のようだ。
「あいつ、俺が初めてに会った日に何て言ったと思う?」
 ランスロットに曰く、『俺の妹! 可愛い! あ、いくらランちゃんでも取っちゃダメだからな!』と言っていたのだそうだ。笑いながら話すランスロットを前に、は顔から火の出る思いでいた。

「あっ、おにいちゃん、」
 敏感なところを撫でられて、思わず上擦った声が出る。身を捩らせて兄の大きな手から逃げようとしても、の体はヴェインの腕の中にすっぽり包まれてしまっている。膝の上にを乗せて後ろから控えめな胸を揉みしだくヴェインは、ニコニコと上機嫌にの耳を食んだ。
は相変わらず恥ずかしがり屋だなー。そこが可愛いんだけど」
「ま、まってお兄ちゃん、ひゃうッ、」
 いつの間にかブラウスのボタンはほとんど開けられてしまっていて、下着もするりと奪われる。初めて体を重ねたのがいつだったのか、よく覚えていない。ヴェインは当たり前のようにと手を繋いで抱き締めて唇を重ねて、そして当たり前のようにと肌を重ねた。間違っているのでは、そう疑問を抱く余地もなかった。兄妹のスキンシップの延長線であるかのようにヴェインはを抱くけれど、にはそれが正しいのかわからない。でも、自分たちの間柄のうち一体何が兄妹として正しくて何が間違っているのか、考えれば考えるほどにわからなくなるのだ。
「ほら、、隠さなくても大丈夫だぞ? おっぱい小さいのを気にしてるも可愛いけど、何も恥ずかしくないからな」
 やんわりと手を退けさせたヴェインの動きは優しいようでいて、有無を言わせない力がこもっていた。けれど慎ましい胸を包み込んだ手のひらはふわふわとした乳房の感触を楽しむように丁寧にに触れて、その落差が背筋に冷たいものを走らせる。
いつから、何からおかしくなっていたのだろう。決して兄妹として正しいことではないと頭が警鐘を鳴らすのに、その違和感をはっきりとさせる前にぐずぐずと溶けていく。とヴェインは兄妹で、そして。
「……ぅやっ!?」
 きゅうっと乳首を摘まれて、は高い声を上げて背中を反らした。何とか積み上げた思考が、散らばるように崩れていく。ヴェインとの行為はただただ甘やかで、熱に呑まれていくようで。自分という形を失って、溶けて交じっていくような恐怖さえあった。
(わたしと、おにいちゃんは、)
 いつから、普通の兄妹ではなくなったのだろう。小さい頃は、まだ『普通』だったはずだ。一緒に掃除をしたり、ヴェインが料理を作る横でお手伝いをしたり。よく一緒にピクニックに出かけたりもした。ヴェインの作ってくれるお弁当が楽しみで、はいつも前の晩そわそわと眠れなかったのを覚えている。がガキ大将に泣かされればヴェインが飛んで来てガキ大将を正座させて説教したり、風邪をひけば付きっ切りで看病してくれたりした。それは妹思いの兄の優しさだと思っていた。何がおかしかったのだろう。それすら間違いだというのなら、とヴェインという兄妹は初めから間違っていたのだろうか。
はおっぱいが気持ちいいもんな。いっぱい弄ってあげるからなー」
「……っ、おにいちゃ、」
 やわやわと優しく胸を揉む手のひら。焦れったいほどにゆっくりと先端を撫で回す指。じりじりとせり上がる熱が、頭の冷静な部分を侵していく。いつの間にか、そうなることが自然であるかのようにヴェインはを抱くようになっていた。がこの行為の意味を知るずっと前から、それは続いていた。もしかしたら自分たちは間違っているのでは、そんな疑念がようやく生まれてもヴェインの熱に呑まれるように溶け落ちていく。考えても無駄なのだとは、思いたくなかった。
すっかりヴェインに知り尽くされた体は、その手の与える快楽に従順で。触れられるほどに脈が早くなって、茹だっているのではないかと思うほどに体が熱くなる。気持ちいいのだと、胎の底がぞくぞく震えた。否定しようもない快感に、思考も溶かされていく。いつものように何も考えられなくなって、ヴェインの望むままに声を上げて、縋って。
「お兄ちゃん、おにいちゃん……!」
「うんうん、は可愛いなあ」
 がっしりと逞しい腕に、必死にしがみつく。とろりとした液体が太腿を伝う感覚があったが、ヴェインは執拗なまでに胸を責め立てる。くりくりと硬くなった突起を撫で回されて、押し潰すように揉まれて。泣きそうな声を上げるの耳元で、ヴェインは繰り返し可愛いと囁く。その低い声すら甘く響いて、はもう与えられる甘さで飽和してしまっていた。
「ひあッ!!」
 首筋に吸いつかれて、頭が真っ白に染まる。胸だけでいっぱいいっぱいのところに新しい刺激を与えれれて、達してしまったのだということさえわからなかった。
「ふぁ……、」
「気持ちよかったか?
 首に唇を当てたまま、ヴェインが問う。声が肌から侵食していくような錯覚を抱いたが、理性が溶け落ちたはこくこくと従順に頷いた。嬉しそうに笑ったヴェインが、のスカートを捲って股の間に手を伸ばす。下着の隙間から太い指がくちゅりと音を立てて割れ目に侵入して、はびくりと肩を跳ねさせた。
「もうすんなり入るようになったなあ、のここが俺の指を覚えたみたいで、嬉しいよ」
「……っ、」
 立派な体格に見合った太い指は、初めの頃は一本挿れるだけでも痛くて、ゆっくりと時間をかけて解してようやく挿入していた。前戯だけでその日の夜が終わることなど当たり前で、ヴェインはひたすらにが痛い思いをしないようにと、気持ち良さだけ感じていられるようにと気遣ってくれた。
けれどそれは本当に、優しさなのだろうか。情交の何たるかも知らない妹をどろどろに溶かすようにして飼い慣らしたその行為は、本当に優しさだったのだろうか。だがの中では、そんな疑問さえ抱く前に消えていくのだ。
「いっぱいイこうな、。お兄ちゃんがいっぱい、甘やかしてあげるからな」
 最初の頃はほとんど感じなかった膣内も、今ではすっかり性感帯として開発されてしまっている。浅いところからゆっくりと擦り上げていく兄の指に、は鼻に抜けるような声を漏らした。よく濡れた内壁は容易にヴェインの指を迎え入れて、離すまいと絡み付く。きゅうきゅうと締め付ける膣を押し返すように、ヴェインは熱く濡れた粘膜を撫で回した。思わず腰を浮かせるをもう片方の腕で抱き寄せたヴェインの陰茎は硬く張り詰めていて、背中をヴェインの胸に押し付けるように密着させられたの尻に熱が当たる。もぞもぞと身を捩らせるの尻がヴェインのものを刺激したが、ヴェインは自分の快楽よりもをイかせることの方が楽しいようだった。片手で乳房を包み込み、掬い上げるように揉みしだく。ツンと立った乳首を焦らすように周りの肌を指先でくるくると撫で回して、時折掠めるように乳首を弾く。膣内に挿入された指は二本三本と増えて、弱い部分を執拗に指の腹で突いていた。耐え切れずにが達して体を震わせても、細い体に絡み付かせた腕は解かずに愛撫を続ける。真っ赤な顔で嬌声を漏らすの頬を胸を弄っていた方の手で抑えて振り向かせて、唇を重ねて舌を入れた。
「ん、ふぅッ……」
「……んむ、」
 湿った熱い息を交わして、ヴェインはの口内を丁寧に愛撫する。いつも逃げ惑う小さな舌はぼうっとしているせいか無抵抗で、舌を絡ませたり吸い上げたりするとぴくりと震えるのが可愛らしかった。膣から指を引き抜いて向かい合わせになるように体勢を変えさせて、後頭部と腰をがっしりと抱え込んでより深く舌を絡める。飴でもあれば良かったのにな、とヴェインは少しだけ惜しく思った。
とろんと目が蕩けてぼんやりしているの腰を浮かせて、そろそろ限界を訴えている剛直の先端をあてがう。何度も達してよく慣らされたそこは、ゆっくりと滑るようにヴェインのものを呑み込んだ。
「んぅ……!」
 自重によってゆっくりと貫かれていく感覚に、はぎゅっと眉を寄せる。自分から穿つことはせずにの体が落ちるに任せているヴェインも、挿入の容易さとは裏腹にぎゅうぎゅうと締め付けてくる内壁に眉間に皺を寄せた。それでも口付けは止めずに、呼吸ごと呑み込むようにしっかりと唇を重ね合わせる。くっついて重なった胸から、背中や腰に回された腕から、ヴェインの熱がの肌を侵していく。苦しいはずの圧迫感すら甘やかな熱となって、もう既に溶け落ちているようなの頭へと上っていった。
「ふあ……」
 陰茎が入り切ったのと同時に唇を離されても、既に熱に侵食されてしまったの瞳からは光が失われている。正しいだとかそうではないとか、さっきまで考えていたことももう、甘い熱の中に沈んで原形を無くしてしまっていた。ゆっくりと探るように突き上げられて、高い声を上げてしまう。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が鳴って恥ずかしいけれど、もう気持ちいいという感覚で頭はいっぱいだった。
「いっぱいしような、。お兄ちゃんの全部、にあげるから」
 当たり前のように、ヴェインは妹への愛情表現に情交という手段を取る。ヴェインは微塵もそれをおかしいことだとは思っていない。可愛い妹、大好きな妹に触れることは、ヴェインにとって当たり前のことだった。手を繋いで、ハグをして、キスをして。そして当たり前のように、セックスをする。それが異常なことだと、無知だったには言えなかった。
咽ぶように喘ぐを、ヴェインはただひたすらに甘やかすように抱く。もうとうの昔から『普通』ではなくなってしまっている。とっくに飽和しきった愛情はもはや毒にしかならないのだと、ヴェインもも知らずにいるのだった。
 
171229
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