自分の愛情が歪んでいると、自覚したのはいつだったのだろう。
 ジークフリートはかつて、王殺しの汚名を着せられて国から逃げた。いつかイザベラの悪逆を暴くため、真にフェードラッヘに尽くすため、最後の王命を果たすため、そのためならばいくら逆賊の謗りを受けようとも構わなかった。後継は熱くなりやすいが、聡明な騎士だ。いつか真実に気付く日もくるだろう。ただひとつ気がかりだったのは、故郷へ残してきた幼い妹のことだった。
ジークフリートをよく慕ってくれていた可愛い妹。はジークフリートを信じて泣いたが故に、街を追われてしまった。大罪人の妹ということで、連座にかけられて処刑されるという話まで出た。幸いにもカール国王の温情により処刑は免れたものの、辺境の村の外れへと追いやられた。ヴェインなど、ジークフリートを慕ってくれていた騎士たちが時々の様子を見に来てくれたが、それも暫くしてなくなった。元黒竜騎士団の主だった面々が皆、僻地の任務へと駆り出されたからだ。遠くから見る妹の横顔は、いつも寂しそうに沈んでいた。
 年の離れた妹は、手先が器用で裁縫が得意だった。針仕事を請け負い、細々と生計を立てていた。時々人を使って、高額な報酬でに仕事を依頼した。自分のせいで日陰者になってしまった妹に対する、せめてもの罪滅ぼしだった。優しいひとがいるのですね、とは首を傾げていた。それを、の住む粗末な小屋の裏で聞いていた。表立っては会いに行くことも援助することもできなかった。ジークフリートの唯一の肉親であるには、監視がついている。兄と関わりがあると思われれば、がどういう目に遭うか想像に難くなかった。
 寂しそうな妹は、時折ひっそりと泣いていた。兄さんに会いたいと、押し殺すように嗚咽を漏らした。が泣いているとき、その栗色の髪を撫でて慰めるのはいつだってジークフリートだった。けれど、ジークフリートはどこにもいない。『王殺しジークフリートの妹』、そう蔑まれ、いないもののように扱われ、陰口を叩かれ、時には石を投げられても、「兄さんは悪いことなんてしてない」と泣きながら声を張った。孤独と無理解に傷付く妹の姿は、何よりも痛ましく、哀れなものであるはずだった。
「兄さん」
 依頼を受けた外套のほつれを繕いながら、がぽつりと呟いた。物憂げに沈む妹の横顔は、この数年でぞっとするほど美しくなった。可能な限り家の中に閉じ篭っているせいで、病的なまでに白い肌。頼りないほどに痩せた体。物憂げに沈む瞳。ジークフリートが傍にいられない間に恐ろしく綺麗になった妹は、孤独の中にあってただひたむきにジークフリートを信じていた。生死もわからない兄の面影を求めて、薄暗がりの中でひっそりと泣いていた。可哀想なはずなのに、どうしてかたまらなく愛しいと気付いてしまった。
(何故、)
 この胸の高鳴りは、間違いなく歓喜だ。自分は、孤独に泣く妹を見て喜んでいるのか。何故、こんなに浅ましく醜い感情が沸き上がってくるのか。ジークフリートは、愕然としてその場から逃げるように立ち去った。歪んだ喜悦を抱いた自分自身が、信じられなかった。
けれど、離れれば離れるほどに思い出す。応えもないのに健気にジークフリートを呼ぶ小さな唇。たおやかな指先。今にも壊れそうなその脆さが、思い出すたびに甘く胸を締め付ける。やがてジークフリートは、取り繕うことを諦めた。愛しいのだ、ひとりぼっちの妹が。

「兄さん……!?」
 フェードラッヘでの騒動が終わり、ジークフリートは真っ先にを迎えに行った。呆然と丸く開いた瞳が、くしゃりと歪む。震える唇が、泣きそうな声を絞り出した。ぼろぼろと大粒の涙を流しながら駆け寄ってきたが、恐る恐るジークフリートへと手を伸ばす。触れれば消えてしまうかのように触れることを躊躇うにふっと微笑んで、ジークフリートはその手をとって抱き締めた。
「ほんとうに、兄さん……?」
「ああ……今まで苦労をかけて、すまなかったな」
「兄さん……兄さんは、悪いことなんてしてないよね?」
「ああ、疑いは晴れた。ようやくお前と、一緒に暮らせる」
 しっかりと目を合わせてそう告げると、はわっと大きな声を上げて泣き出した。いつもひっそりと隠れて泣いていたが、幼子のように人目も憚らずに泣く。どこか遠い場所に越そうか、そう言って頭を撫でるジークフリートを疑うこともなく、はこくこくと頷いた。
 それからすぐに、ジークフリートはと共に居を移した。ずっと疎外されてきたをいきなり街中に移しては落ち着かないだろうと言って、また人里離れた場所を選んだ。自分のことは気にしなくていい、とは申し訳なさそうにしていたが、自分も街中は苦手だと言えばはあっさりと納得した。
王都に戻れたヴェインたちがの様子を見に来たがったが、何かと理由をつけて断った。以前に対してかなり厳しい取り調べを行ったランスロットも、謝罪したいと面会を申し込んできたが、には伝えずに怖がっているからと断った。
ジークフリートの事件を境に止まっていた時間は緩やかに動き出してはいたが、の時間を動かしたくなかった。寂しいのままでいてほしい。ジークフリートに縋ることしか知らない、可哀想な妹のままでいてほしい。ジークフリートは静かに、を囲い込んでいった。
「兄さん、どうしたの?」
 ベッドに押し倒して覆いかぶさっても、は取り乱すこともなくきょとんとジークフリートを見上げた。男の醜い欲望も知ることなく育った、無垢な妹。普通なら成長の中でそれとなく知っていくものを、この可哀想な妹は独りでいすぎたために何一つ知らないのだ。が知っているものといえば、家事と針仕事と野草の知識と、あとはほとんどジークフリートのことばかりだ。の寂しい人生の中で、年の離れた兄の占める割合はかなり大きい。それを僅かたりとも減らしたくなくて、ジークフリートはを寒々しい日々から出してやらなかった。
いつもは冷静な頭の芯に、熱が灯る。おかしくてもいい、どうせ一度は狂人と謗られた身だ。愛しい妹の中に自分だけが存在できるのなら、それ以上の幸せなどなかった。
「……
 名前を呼べば、はにかんで笑う。この顔を、他の誰にも見せたくない。がジークフリートを慕うのは、ジークフリートしかにはいないからだ。ひとりぼっちの妹は、ジークフリートと過ごした幼い日々に縋って生きるしかなかった。はジークフリートしか知らない。それでいい。はきっと誰にだって愛される。こんなに可愛らしいのだ。隠しておかなければ、自分のものではいてくれない。
 は、拍子抜けするほど無抵抗だった。行為に関して無知なことを除いても、恐ろしくなるほど穏やかにジークフリートを受け入れた。震えたのは唇を重ねたときと舌を絡めたとき、それに服を脱がせたときくらいで、あとはなされるがまま。不安そうにしながらも抵抗しないのは、拒絶したらジークフリートがいなくなりそうで怖いのだろう。かつて、突然消えたジークフリート。兄がいなくなることを恐れるあまり、何をされても受け入れようとする健気で哀れな妹。酷い兄だと、わかっていた。
「はぅ……ッ!」
「力を抜け、。怖がらなくていい」
 そっと脚を押し開いてまだ誰も触れたことのないそこに手を触れると、は泣きそうな顔で声を上げた。何度重ねたかわからない唇をまた重ねれば、安心したようにの体から力が抜ける。わからないなりに懸命にジークフリートに応えようとするが、愛おしい。強ばった太腿を繰り返し撫でて、力が抜けるのを待った。
「ふっ、う、にいさん……」
「大丈夫だ、。そのまま、」
「兄さん……これ、なに……?」
「…………愛を育む、行為だ」
「そう、なんだ……」
 未通の場所に指を挿し入れていくと、痛みと異物感に怯えたが弱々しい声でジークフリートに縋る。幼い問いかけに目を逸らしそうになったが、ジークフリートの答えに安堵したような、嬉しそうな柔らかい微笑みを浮かべたに、突き刺さるような罪悪感と同時にどうしようもない劣情を抱いた。
「にいさん、すき」
……」
 ふわりと笑ったがあまりに綺麗で、汚い自分を突き付けられて許しを乞いたくなる。けれどそれ以上に抑えが効かなくなりそうで、ジークフリートはの唇を塞いで言葉を奪う。柔らかな唇は自分のかさついたそれとは全く違っていて、とても同じ生き物だとは思えなかった。
「あ、」
 どこもかしこも頼りなく、柔らかい体。体の内側もそれは同じで、傷つけないよう丁寧に侵していく。誰も受け入れたことのないそこはきつくて狭く、けれどよく濡れてジークフリートの指を懸命に求めるように締め付ける。弱いところを探りながら、外にある親指で陰核を優しく揉み潰す。普段は青ざめてさえ見える肌に朱が差して、生理的な涙で潤んだ瞳はひどく扇情的だった。
「いい子だ、
 快感から逃げるように身を捩るを宥めながら、奥へと指を這わせる。同じ血を分けた存在だからか、の中に触れていると胸の奥底が安堵で満たされた。指で触れているだけでこうなのだから、繋がってひとつになれたらどんなに幸福だろう。少しずつ指を増やして中を慣らしていけば、可愛らしい声を上げてが背中を震わせた。軽く達したらしく、その目はぼんやりと虚ろを見つめている。褒めるように額に口付けを落として、ゆっくりと指を引き抜いた。
「……すまない、
「にいさん……?」
 卑怯だという自覚はあった。けれど、それ以上にが欲しかった。言い訳のようにには意味のわからない懺悔を呟いて、細い脚を大きく開かせる。恥ずかしさのあまりぎゅっと目を瞑っただったが、ジークフリートはそのまま自らのものを濡れた膣口にあてがった。見ないでいてくれるのなら、その方がいい。浅ましい欲望に濡れた顔を、清らかな妹に見られたくなかった。自らの手で汚そうとしておきながら、矛盾した感情だと自嘲した。
「あッ……!?」
 めり、と裂かれるような感覚に思わずは目を見開く。指よりもずっと太くて質量のあるものが、股の間を裂くようにして押し入ってくる。これがジークフリートのしていることでなければ、きっと泣き叫んで暴れていた。密着するように覆いかぶさってきたジークフリートの表情はいつもと違っていて、少しだけ怖かった。けれどその瞳の中には確かにを気遣う優しさの色があったから、は必死に唇を引き結んで痛みに耐える。シーツを握り締めるの手を自分の背中に回させたジークフリートは背中に爪を立てていいと言ったが、はジークフリートの背中を傷付けぬようにと拳を固く握った。ぐいぐいと奥の奥まで押し開かれて、まるで体の中に杭でもねじ込まれているかのようだ。
ぐちゅ、と粘着質な音がして、ジークフリートの動きが止まる。幼気な妹の体に自らの欲望を押し込んだジークフリートは、形容しがたい幸福感に包まれて息を漏らした。温かくて、気持ちいい。体だけではなく、心までもが優しくて柔らかくて温かいものに包まれているかのようだった。痛みに眉を寄せながらも、ジークフリートの満たされた表情に安堵するは、ただただ健気で。ただ繋がっているだけでも幸せだったが、この胎の中を自身で満たしたい欲求に駆られて腰を動かす。最初は痛がる様子を見せただったが、口付けを繰り返したり優しく胸を揉んだりしているうちに強ばった体がゆっくりと弛緩していく。緩やかな抜き差しを繰り返すと、次第に表情も蕩けていった。
「あ、あっ……にいさん……」
「痛くないか、
「だい、じょうぶ、でも……なんか、へんな、気持ち……」
「それでいい、何もおかしなことではないから」
 破瓜の血と愛液が混ざり合って、滑りの良い中を思うままに蹂躙していく。騙すようにして手に入れた背徳感と、綺麗なものを汚した征服感が綯交ぜになってジークフリートを煽り立てた。次第に激しくなる律動にの瞳が焦点を失い、溶けた理性がから自制を奪い強く爪を背中に食い込ませる。その痛みさえ気持ち良くて、ジークフリートは獣のように腰を振った。弱いところを抉ったジークフリートの陰茎を締め付けるように、内壁がぎゅうっと収縮する。逃げるように腰を引かせたを逃がさぬようにと強く抱き締めて、吐き出した白濁を余すことなく注いでいく。びくびくと震えるが動けないように、腰に回した腕にしっかりと力を込めた。
?」
 目を閉じたの反応が薄いので軽く揺さぶってみるが、気を失ったのか反応はなかった。少しの間思案したジークフリートは、ふと思い出したように気絶したから自身を引き抜いて指を挿れる。ぐぽぐぽと卑猥な音を立てながら、自らの出した精液を掻き出した。自分で一滴も零さないようにと押し込んだ行動と矛盾しているようにも思えたが、ジークフリートは丁寧に膣内から白い液体を掻き出していく。自分のものでの中を満たしたかったが、子どもができては困る。子どもができたら、はひとりぼっちではなくなってしまう。には自分だけがいればいい。精液を掻き出し終えたジークフリートは満足げに微笑んで、を腕の中に囲うと自分も眠りに就くのだった。
 
180103
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