ぽた、と水滴が落ちる音にすら震える肌。噎せ返るような熱気。茹だるような暑さは、カーテンを締め切って薄暗い部屋の中でも変わらない。むしろ締め切られているからこそ、こんなにも暑いのか。遮光カーテンの隙間から差す光が照らした白い肌を、幾筋もの汗が伝い落ちていく。折り畳みテーブルの上に放置された麦茶のコップはとっくに冷たさを失い、結露した雫が硝子を伝い落ちて小さな水たまりを作っていた。
「……はぅ、」
繋がった体を揺さぶると、力無い喘ぎが漏れる。くたりと力の抜けた腕を縋るようにランスロットの首に回したは、汗で濡れた襟足を指先で撫ぜた。その気怠げな仕草が妙に艶めかしく思えて、膝の上に座らせた体をぎゅうっと抱き締める。擦れ合った太腿は滑るほどに汗で濡れていて、けれどそれはランスロットも同じだ。薄い布団の上で、もうどれほど情交に夢中になっているのだろう。ランスロットの体力に付き合わされるの負担は軽くないと判っていながら、夏の暑さに溶かされた理性はしばらく戻ってきそうにはなかった。
「らんす、手……あつい、ね」
腰を抱え込むランスロットの手から伝わる熱は、平生のそれよりだいぶ高い。触れ合ったところから溶けてひとつになれそうだと、それこそ頭が溶けたようなことを考えた。
ゆるゆると突き上げながら、服越しに胸を指先で撫でる。柔らかい生地の白いワンピースが、少なからず汗を吸ったせいでの薄い体にぴたりと張り付いているのが淫靡だった。肌の色さえ透けて見えるほどに汗に濡れてしまったワンピースは、本当は脱がせてしまった方がいいのだろう。も張り付く布地が気持ち悪いのか、時折もぞもぞとノースリーブの肩を引っ張って背中に隙間を開けようとしている。それでも脱がせないのはその方が淫らに見えるから、だなどと到底に言えるはずもなかった。平らな胸を覆っていた下着だけが、器用に取り去られてフローリングの上に放り出されている。淡いレモンイエローのチェック模様が、ランスロットの良心をチクチクと刺した。
「ふぁ……」
ぺたりと肌に張り付いた衣服が体の線を強調しているのは、胸も同じで。控えめに存在を主張する突起を服越しに摘んで揉み潰せば、小さな背中が仰け反った。それをやんわりと抱き込んで阻んだランスロットの陰茎を、蕩けきった膣壁がぎゅうぎゅうと締め付ける。乱暴に突き込んでしまいたい衝動が溶け落ちた理性の下から湧き上がってくるが、それだけはなけなしの良心で必死に抑え込んだ。ぐったりとランスロットに身を預けているはとっくに限界なのだと、判ってはいた。
「……ありが、と、らんす」
汗で濡れた前髪がぺたりと額に張り付くのを指先で丁寧に退けると、それに気付いたが優しく微笑んだ。無垢な微笑みを真正面から目にして、無性に謝りたいような気持ちになる。熱病に罹ったような暑さも息苦しさも、さらさらした長い髪が汗で濡れて肌に張り付いてしまっているのも全て、ランスロットのせいなのに。本当は、こんなことばかりに強いたいわけではないのだ。ふたつに割ったチューペットの甘さだとか、開け放した窓から吹き込む風の気持ちよさだとか、ベランダで元気に育っているの朝顔だとか、この小さな主に知ってほしいことはたくさんあるのだ。それでも薄暗いこの部屋で、締め切った窓の向こうのジリジリという蝉の声ばかりを聞きながら不健全な行為に溺れている。胸を刺す罪悪感と、それすらも灼き尽くすような熱情。しっとりと汗ばんだ柔らかい肌にどれだけ触れても、渇くような欲は治まらなかった。
「様、お顔を上げてください」
「うん、」
ランスロットの求めにいつだって否やなく応えるの信頼が、少しだけ怖くなる。頬にそっと手を添えて唇にキスを落とすランスロットに、は本当に嬉しそうに笑う。「らんす、だいすき」とランスロットの手に頬をすり寄せるのぬくもりに、指が震えてしまいそうだった。長い睫毛が、滲んだ涙で濡れている。今にも壊れそうなほど脆いくせにランスロットの行為を許容し続けるの優しい愛情にただ、溺れていた。何度も唇を重ねて、膝に乗せた小さな体を抱き締める。右手をの左手に重ね、指を絡めて。左手で腰を抱き込み、より深くの中に自身を沈めていく。熱の篭った息を吐いたが、縋るようにランスロットの背中に腕を回した。小さな体で一生懸命ランスロットを受け入れようとするの愛の深さに、また溺れていく。体位を変え、床に敷きっぱなしの薄い布団の上に押し倒しても、は怯えることもなくふにゃりと笑った。長い髪は白い布団の上に散らばることもなく、白い首筋や華奢な肩にぺたりと張り付いている。首筋に顔を寄せて舌を這わせれば、仔猫のような喘ぎが漏れた。少ししょっぱい汗の滲む首筋を丁寧に舐め、吸い付いて痕を残す。小さな体躯にぴとりと密着するように覆いかぶさって、腰を繰り返し前後させる。の感じる場所を執拗に擦り上げて、ビクビクと悶えるを抑え込む。汗ばんだ手がぴたりとくっついて、体温が混ざり合っていくのが心地良い。快感から逃れるようにが身を捩り、不意の動きで締め付けられたランスロットは呆気なく達する。吐き出された白濁に、は放心したような顔で「ふぁ、」と声を漏らした。愛しいひとの胎内を満たしていく錯覚に身を委ねていたランスロットは、射精の感覚が収まるまでを抱きしめたまま腰を押し当て続ける。こんなにも小さい体なのに、いくら体を拓いても『ランスロットの』になった気がしない。当然だと、守るべき主に支配欲を覚えること自体間違っているのだと、わかってはいてもそう望んでしまうのは、自分が浅ましい獣であることの証左のようだった。精液を吐き出し終えた陰茎を引き抜くと、ぐぽっと淫猥な水音が響く。古い扇風機の回る音が煩かったが、それでもの耳には届いたらしい。ただでさえ赤い頬をさらに紅潮させたが、叱られるのを待つ子どものような顔でランスロットを見上げて。泣きそうにすら見えるその羞恥の表情に、ずくりと胸が疼いた。
「……らんす?」
息も絶え絶えに見上げてくるが身を起こそうとするのを押し留めて、どちらのものともわからない液体で濡れたそこに指を這わせる。驚いて脚を閉じようとしたは、ランスロットが再び瞳に宿した欲情の色に気付いたのだろう。不安げに伸ばされた手を握り締め、指を絡める。同じくらい熱いはずなのに、やはり不思議とあたたかいとすら思える。そっと太腿を押し開いて、先ほどまで繋がっていたそこを露わにする。つぷりと押し込んだ指は、あまりに容易く奥まで入った。
「様、」
縋るように、名前を呼ぶ。いつもなら、稚いを安心させるために優しい言葉をたくさん紡いだ。今日はそんな余裕すら溶け落ちて、ただただを暴きたくて、乱れさせたくて、もっとランスロットの与えるものだけでいっぱいになってほしくて。ぐちゅ、と二本目の指を挿入する。ぐちぐちと、いやらしく執拗に粘着質な水音を立てて濡れた内壁を擦り、弱いところを指の腹でなぞり、時折突く。愛液や白濁液が指に絡み、掻き出されるように飛び散ってのワンピースの裾を汚す。断続的にかすれた声を上げるの瞳の光は朧げで、今にも気を遣ってしまいそうだ。はあはあと荒い呼吸を繰り返すのワンピースに手をかけ、最早服としての用を成していないそれをようやく脱がせる。汗の伝う薄い乳房に吸い付き、やわやわと唇で食むように愛撫を繰り返す。ツンと勃った乳首を飴のように舐め転がし、舌先でつついて。柔らかい弾力を持つ膣内も休むことなく指でぬちゅぬちゅといたぶって、に熱を与え続ける。熱に溶けてしまえばいい、も溺れてしまえばいい。そうしてひとつに溶け合って、互いに溺れてしまえたならそれもひとつの幸福だろう。
「あっ、はう、ぅ……」
ぷちゅ、と小さく水の弾ける音がしてが脱力する。軽くではあるが、潮を吹いたようだった。汗か愛液か精液か、淫らな液体に濡れた太腿に顔を近づけて柔らかな内腿に口付ける。ぴくん、ぴくんと口付けるたびに震えるの目は虚ろで、もう本当に限界なのだと見て取れた。
「様、」
もう終わらなければ、休ませてあげなくては。頭ではわかりきっていることなのに、を抱き起こした腕の望む先など呆れるほどに明らかだ。様、ともう一度呼びかけて耳朶を食む。応えて弱々しくもランスロットの名を呼ぶの声は慕情に溢れていて、そんな声で呼ばれたらやはり許されたのだと錯覚してしまうほどだった。
「あぅ……ッ、らんす……!」
後ろから抱え込んで、再び下から突き上げるように挿入する。ぐにゃりと柔らかい体をがっちりと抱え込んで、逃がさぬようにと腕で囲って。最早ランスロットに縋る力もないの太腿を抱え上げるように掴んで、何度も上下するようにしての中を前後させる。ぬちゃぬちゃと飛び散る愛液と汗がランスロットの太腿をも濡らし、太腿を掴む手もじっとりと湿った肌の感触に滑りそうだった。はあはあと息を荒らげるに顔を近づけると、お互いの吐息の熱が頬に当たる。じわじわと吹き出しては額や首筋を伝っていく汗が、の肌に落ちるのが淫靡に思えた。
「様、様……」
「らん、す……」
自分の体を支えられなくなったをうつ伏せに布団の上に押し倒し、小さな尻を突き出させるようにして後ろから突く。くびれもない細い腰をがっちりと両手で掴んで、小さな体に欲望を突き込み続ける。ぬるぬると滑りそうな手に力を込めれば、身をよじることもできなくなったが快感から逃げる術を失い泣きそうな声を上げる。狭い膣を押し開き子宮口を突き上げる征服感と、引き抜くときに濡れた内壁が絡みつく快感。うねるように収縮を繰り返す膣はまるで射精をねだっているようで、何度目になるかも忘れた白濁液を吐き出す。ビュルビュルと勢いよく膣内を汚して精液を吐き出した陰茎がぴくぴくと震え、けれど心地よい膣内の感触に数度往復を繰り返しただけでまた硬さを取り戻す。本当に獣のようだと自嘲しながら、の背中に胸板を押し付けるように体を重ねる。華奢な肩を壊さないようにぐっと掴んで、また律動を始めた。
「……あー」
ランスロットのアパートの前で、途方に暮れたように立ち尽くすヴェイン。僅かに開いたキッチンの窓から漏れる声に、ヴェインはいたたまれない表情になってそっとそれを外から閉めた。
「ランちゃん、窓開いてたぜ……」
もちろんその呟きを、今聞かせるつもりはない。幼馴染の青年もその小さな可愛い主も、ヴェインが今ここにいることを知ったなら飛び上がって大慌てするだけでは到底済まないだろう。が遊びに来ていると聞いて、まともなおやつも常備していないだろうランスロットにアイスを差し入れに来たのだが。
「……溶けちゃうけど、仕方ないよな」
くるりと踵を返して、近くの公園へと向かう。三つ買ったアイスを食べ終わる頃には、ランスロットとの睦み合いも一区切りついているだろう。ついていてほしい。アイスを買い直して再びあの部屋の前に立ったときには、どうか二人とも身だしなみを整えていますように。
「パーさんかジークフリートさん、通りがかったり……しないよな」
ジリジリと蝉の五月蝿いアスファルトの道。真っ白な雲の浮かぶ青い空を見上げて、ひとりの青年が肩を落としたのだった。
180807
松元さんに捧ぐ麦茶セックス。