「らんすー! しゃんだるほん拾った!」
「しゃん……? っ、様!? その男はいったい、拾ったとは!?」
 あどけない無邪気なの声に、犬か猫でも拾ってきたのだろうかと思い振り向いたランスロット。しかしそこにいたのは、犬でも猫でもなく黒を基調とした服装の青年で。目を剥いて叫んだランスロットを無視して、その青年はと繋がれた手をくいくいと引っ張った。
「俺の名はサンダルフォンだ、
「呼び捨て!? 貴様、様に拾われた立場で不敬だぞ!」
「さんだるほん?」
「サンダルフォンだ、ほらもう一度」
「シャンダルフォン!」
「……何か愛称でも考えてくれ」
「さんだる?」
「それは履物のことだろう?」
「むぅ……」
「貴様、様にいただいた愛称に文句をつけられる立場か」
「……さっきから何なんだ、君は」
「それはこちらの台詞だ! 様、この男はいったい何者なのですか!?」
 ランスロットを無視してと気の抜ける会話を続ける青年の肩を掴み、二人の間に割り込んだランスロットはに問う。けれど問われたは、きょとんと口元に指を当てて首を傾げた。
「……さんだるほん、なにもの?」
「さあ、何者だと思う?」
「知らずに連れて来たのですか!? 貴様も、はぐらかさないで真面目に答えろ!」
「君に答える義理はない」
「何だと?」
「ね、ねえらんす、さんだるほん……」
「……あっ、様! よかった、ここにいらしたんですね!」
 険悪な雰囲気のふたりにがおろおろとしていると、不意にその空気を裂いてヴェインが駆けてくる。の前にしゃがみ込んだヴェインは、確かめるようにの顔を覗き込んだ。
「……どこもケガとかはしてませんね? さっき様の悲鳴が聞こえたって、侍女から報告があったんですよ」
「何? 様、それは確かなのですか?」
「うん、あのね、裏の林に、さんだるほんがおちててね。だいじょうぶ? っていったらね、魔物がでてきてね、」
が泣きながら俺に縋って助けを求めたから、俺が魔物を倒した」
「貴様が、様を……守ってくれたことについては、礼を言う」
「君に礼を言われる必要はない。が俺を必要としたから、その声に応えたまでだ」
「……様?」
「え? さんだるほん、『きみは俺を必要とするのか』ってきいたから、うんっていったよ?」
 何やらそれは安易に答えてはいけない質問であるような気がしたが、サンダルフォンというらしい青年がを助けたのは事実らしい。けれどランスロットは白竜騎士団の団長として、言わねばならないことがあった。
「……ひとまず、彼が部外者であることに変わりはないのですね。しかも城内に倒れていたということは、無断侵入の可能性もある」
「文句なら、俺をここに落としたルシフェルに言ってくれないか」
「さんだるほん、おとされちゃったの?」
「ああ。もう一度、今度は世界を傷つけないように触れてくるようにと言われて落とされた。それが俺に与えられた、罰だと」
「……罰?」
「あるいは償いか。どちらにしても、同じことだ」
「なあランちゃん、この男は……」
「ああ、一度事情聴取を……」
 俯いて不穏な言葉を口走るサンダルフォンに、ヴェインとランスロットは顔を見合わせてさり気なくとの間に入ろうとする。けれどは二人の影から進み出て、長めの前髪に隠れた瞳を覗き込むようにその手を取った。
「……ッ、」
「さんだるほん、おうちにかえれないの?」
「……ああ。彼を家族と形容するなら、その表現もあながち間違っていない」
「じゃあ、わたしのおうち……は、ここだけど、一緒にすもう? おうちないの、さびしいよ?」
様……!?」
「君は……」
 深い事情を抱えているように見える青年の手を衒いなく握り締め、はランスロットを振り向く。
「おねがい、らんす。ちゃんとめんどうみるよ?」
「なりません、様。元の場所に戻してきましょう」
様、ランちゃん、その言い方だと犬とか猫みたいだから、」
「愛玩動物なら、俺の用途の候補にあった」
「どんな人生送ってきたんだアンタ!? そうじゃなくてさあ!」
、君が望むなら俺は首輪を嵌められてもいい。星の獣も、所詮はそういう本質なのかもしれないな」
様に妙な趣味を強いるな! ……星の獣?」
「まさかアンタ、星晶獣なのか!?」
「…………」
「さんだるほん、星晶獣なの?」
「そう。それも、天司と呼ばれた原初の星晶獣だ。もっとも役割は……使い捨ての代用品だったがな」
 ランスロットとヴェインの言葉は無視したサンダルフォンは、の問いかけに自嘲気味な笑顔を向けて頷く。青年が明かした思わぬ事実に、ヴェインとランスロットの絶叫が響き渡ったのだった。
 
180226
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