「義勇さまが、好きです」
 この気持ちが恋でも愛でも、何だっていい。そんなことはどうだって良くて、ただ義勇が好きだった。家族としても、異性としても、そういった説明のつけられない、ただ大切なひととしても。恋ではなくとも構わない、家族愛ではなくとも構わない、ただ義勇を失うことが怖い。そう言っては泣いた。分不相応な想いだとしてもただ義勇を慕っていたかった。義勇に与えられた全てが大切で、義勇がに望むことに応えたかった。義勇が何かに負い目があってそうしてくれているのだとしても、責める気持ちなど持てるはずもないのだと。義勇の優しさに甘えていた自分こそ責められるべきだと、は子どものように泣いた。
「お前は……それで良いのか」
 問うた義勇には、その問いは無意味だと解っていた。は義勇の傍にいていい理由が欲しいのだ。義勇がの知らない負い目を理由にの手を離そうとするのなら、この優しい気持ちにありふれた名前をつけてしまっても構わないと。義勇に否定させたくないと、雪よりも脆くて綺麗な感情をつまらない欲と同列に並べてでも守ろうとする。言葉にしてしまえばなんと陳腐な感情だろう。それでもの知らないことでが義勇を見捨てるべきだと言われれば、反駁に差し出せるものはその想いしかなかった。義勇が与えてくれたものは、指折り数えても数えきれない。本当の理由なんて、何だって構わないのだ。は義勇に助けられて、救われて、そうして育まれた想いならばきっと理由はどうあれ本物だろう。そうは信じているけれど、義勇の心はわからない。わからないから不安で、不安だから確かめたかった。
「義勇さまが、どう思っているのか、聞くのがこわいです……何とも思われていないのが、いちばん、こわいです」
「……何とも思っていない相手に、こんなことはしない」
 義勇にとっては、手放すべきだと解っていても手放せずにいた大切なものだ。今突き放さなければ間に合わないと、解っていても。それでもから伸ばされた手を、握り返してしまった。答えなどとっくに、胸の内にあった。ただ罪悪感を理由に、認められずにいただけだった。臆病なが、義勇の拒絶を恐れてもなお自分から手を伸ばして。それを幼い愛だと笑えるほど、義勇はに対して冷淡にはなれなかった。いろんな理由をつけて自らの気持ちから目を逸らしていたところで、結局思い知らされるだけなのだ。どこかで笑っていてくれればそれでいい、そう思えなかった時点で義勇の中では既に答えが出ていたのだろう。それでも到底許されることではない、から求められたことを言い訳にできるはずもない。わかっているのにどうして、愚かな行為を続けているのか。普通の男だと言ったことを宇髄に笑われた理由が、やっと解った気がした。
「何でもいいなどと、不用意なことを口にするな」
「……っ、」
 義勇の手が、の背中を撫でた。びくっと震えたを抱き寄せて、腋や肩の形を確かめるように撫で下ろす。片腕で背中をしっかり抱え込んで、座った義勇の胸に頭を埋めさせるようにもたれさせる。赤くなった頬を指先で撫ぜて、その手を下半身へと這わせていった。脇腹を撫で、するりと腰から太腿を撫でる。ぴくぴくと震えるの、寝間着の下服をずり下ろした。内腿の柔らかさを指先で確かめるようになぞる度、抱え込んだ背中がびくりと震える。羞恥に目をつぶって義勇の胸に顔を埋めるをじっと見下ろしながら、少しずつ際どいところへと指を滑らせていく。の体躯には少し長いシャツの裾は、さらけ出された臀部を申し訳程度に隠していて。背中の側から下着の中に手を差し込んで、柔らかな張りのある臀部を揉みしだいた。
「っ、」
 小さな声を漏らして、が身動ぎする。義勇の手が性的な意図を持ってに触れることなど初めてで、未知の感覚にぞわぞわと下腹部が震えていた。もじもじと脚を擦り寄せるを見て、義勇はやや強引に内腿に手を差し込んで脚を開かせる。そうして開かせた股に手を伸ばして、指でぐっと押し込むようにそこに触れた。あ、と泣きそうな声を漏らしたの耳元に顔を近づけて、義勇は口を開く。
「ここに、挿れる」
 端的に性行為を説明する義勇の低い声に、ぞわりと肌が粟立った。指でさすさすと下着の上から割れ目を擦られる感触に、ぞわぞわと落ち着かなくなって。のお腹のあたりに硬いものが当たって、義勇の隊服のベルトだろうかとは義勇の胸に手をついてもぞもぞと身を捩る。けれどその途端にぐっと力強く抱え込まれて、身動きのとれなくなったの耳元ではあっと堪えるように義勇が息を吐き出した。
「……女の胎に、男のものが入る。本来は子を成す行為だ、そうやって愛情を確かめる」
「……?」
「可笑しいだろう。夫婦でもないのに、子を成すつもりもないのに、多くの男女は快楽だとか欲のために体を重ねる」
「義勇さまは……それが、嫌い、ですか?」
「俺には必要のない行為だった。お前に……強いていい行為でもない。今のお前にとっては、おそらく痛いだけだ。何より、お前は知らなさすぎる」
「でも、」
「知らずに奪っていいものじゃない、一生を共にする相手と……結婚してから、するべきことだ」
「……義勇さまが、許してくれるなら、一生お傍にいたいです。結婚が必要なら、結婚します」
「お前はどうしてそう、簡単に……!」
 それがどんなに大きなことか、知らないは子どもなのだ。怖いくせに、震えているくせに。それなのにまるで簡単なことのように、それが愛だの恋だので結び付くことに必要ならすると、そのひたむきさは恐ろしいほどだった。
「わたしは、義勇さまが好きです……義勇さまは、私のことを、好いていない、ですか……?」
「……好く資格がない」
 卑怯な答え方をした自覚はあった。だから義勇は、顔を上げたを真っ直ぐに見れなかった。けれど本心なのだ。義勇はに好意を向けられていい人間ではない。それが許されていいわけがない。けれどは、ぎゅっと義勇に縋りついた。
「……義勇さまが、許してくれなくても、一生好きです」
……?」
「義勇さまが覚えてなくても、気にしていなくても、いっぱい嬉しいこと、あったんです。義勇さまが、安心をくれました……でも、」
 カタカタと震えながら、はぎゅっと自分の手を握り締める。
「義勇さまに、嫌われるのは、死ぬより怖いです……もう要らないって言われるのが、何よりもこわいです……!」
 その言葉に、義勇は目を見開いた。あれほど死に怯えているが、それよりも恐ろしいことだと義勇の拒絶を怖がっている。そこまでに言わせてしまったことを、義勇は後悔した。何もかもを生きるために差し出せるほど臆病なに、それ以上に怖いものを与えてしまった。義勇が、そうしてしまったのだ。ありふれた恋情などを、に与えてしまった。誰よりも臆病な少女に、文字通り死ぬほど怖い思いをさせてしまっているのだ。義勇が手を引いて、真っ当な生き方を叩き込んで。隣に誰かがいることの幸せを与えたくせに、それを突然奪おうとした。罪悪感に怯え、資格がないと、と向き合うことから逃げ出そうとした。
「……悪かった」
「…………」
「ここにいてくれ……嘘じゃ、ない」
「義勇さま、」
「本当に、お前が思っている以上に重いことだ。それでも良いのか」
 こくこくと必死に頷くに、手を伸ばす。髪を撫でると、嬉しそうに目を細めた。その拍子に涙が零れ落ちて、ずくりと劣情が刺激される。両腕で小さな体をかき抱いて、未だ声にはできない感情を唇の動きだけで紡ぐ。それをはっきりと読み取ったは、心の底から嬉しそうに微笑んだのだった。
 
190225
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