つぷ、と指を埋められる感覚に、背筋を震わせた。何度か行為を重ねるうちに指を挿れられることはあったけれど、どうしてもその瞬間は身構えてしまう。宥めるように義勇が口付けてくれるのに、体はどうしようもなく強ばって。儘ならないことに涙を零せば、するりと肩を撫でた義勇は「大丈夫だ」と囁いた。条件反射のように、体から力が抜ける。少しずつ深くまで入っていく指は、を傷付けないようにともどかしいほどゆっくりと進んでいた。
「……ふっ、う、」
義勇は決して大柄ではないけれど、との体格差は歴然としている。節くれだった指も男性のそれで、膣道を押し開いていく中指の関節の感触まで鮮明に感じられてしまいは堪えるように唇を噛み締めた。どんなに勇気を振り絞って見た目には威勢よくぶつかっても、一旦行為が始まれば義勇にされるがままに縋ることしかできない。そういうところが子どもなのだと、否応なしに思い知らされて。ふぅふぅと息を荒らげて口に手の甲を押し当てるを見下ろして、義勇は奥まで押し込んだ指をずるっと引き抜いた。
「あっ……、」
惜しむような声が出て、は恥じ入るように頬を赤らめた。はしたないだろうか、と涙目になるに、義勇はじくじくと欲情が疼くのを感じる。の挙動の全てに欲を煽られているなどと言えば、さすがに怯えさせてしまうだろうか。一度引き抜いた指をまた入れれば、ぎゅっと縋るように中が締め付けてくる。恐ろしく素直な反応に、ぞくぞくと震えたのは欲情だろうか歓喜だろうか。濡れた粘膜を擦りながら奥へと進み、引き抜いてを繰り返す。そのたびに跳ねる背中をそっと撫でると、そちらも感じるのかは泣きそうな顔で義勇を見上げた。義勇さま、とそれしか知らないかのように義勇を呼ぶのがいじらしい。浅いところで探るように指を動かせば、びくびくと耐えかねたかのように震える。最も反応が顕著だったところを指の腹でとんとんと叩き、反射的に後ずさる腰を押さえつけて。何度か体を重ねるうちにわかってきたの弱いところを指先で撫で回して、時折ぐっと強く押し込む。少しずつ拡がっていく膣内に、二本三本と指を挿入して。浅い呼吸を繰り返して必死に義勇の与える感覚を受け入れようとするが、ひどく愛おしかった。
「ぅん……ッ、」
目をぎゅっとつぶって甘い声をあげるのその反応は、義勇と夜を重ねることで形成されたものだ。そんなことにすら、征服欲にも似た劣情を覚える。くちくちと水音を立てながら、逃がさぬようにと追い詰めていく。優しさは、時に執拗さにも成る。丁寧にの体を拓いていく義勇のそれは、見方を変えれば隙のない蹂躙でもあるのかもしれなかった。
「あ、ぎゆうさま、」
はいつも、必死に義勇を呼ぶ。「義勇さま」と、まるでそれしか知らないように。けれど実際、のちいさな世界はほとんど義勇が占めている。狭霧山で過ごした時間よりも、義勇の元で過ごした時間の方が長くなった。が生き急ぐのをやめるまでと、そう思っていたはずだったけれど。自分などが守る資格がないと思っていながらもいつしかを手放せなくなった義勇の葛藤も苦悩も知らず、それでも必死に義勇を追って走り続けたの目には義勇の背中ばかりが映っていたのだ。いつか義勇に突き放されることを察していて、それでも義勇に安息を見出して、振り向かない義勇を追い続けた。どんなに、怖かったことだろう。要らないと言われるその日を恐れて、それでもあの日泣くまでははそれを一度たりとも義勇の前で口にしなかった。本当は自分が継子に足る剣士ではないと、誰よりも自身がわかっていたから。義勇が内側に抱え込んだ理由が、意味をなさなくなる日を恐れて。いつ何時「もういい」と言われるかわからない恐怖に怯えて。それでも、義勇がに与えたものだけを信じ続けた。自らの目に見える義勇を、信じて駆けた。
「お前はきれいだ、」
「……っ、」
綺麗で、強い。情を交わす仲になっても未だ愛しているとも守るとも言ってやれない義勇に、憚りなく好きだと、幸せだと、小さくて脆いからだのすべてで義勇が愛しいと訴える。義勇の与えうるものは言葉だって何だって与えてやりたいと、与えるべきだと、そう思うのに。言葉だけは与えてやれない。どうしてか、喉がうまく動かない。与えてやりたいのに、与えてやれない。それなのに本当に幸せそうに笑うを、義勇はずっとずっと抱き締めていてやりたくなるのだ。
「んッ、ぅ……義勇さま、そんなっ、とこ、」
指は中で動かしたまま、脇腹に顔を近付けて。その傷を慈しむように口付けを落とすと、は狼狽えて腰を捩らせようとする。やんわりと腰を押さえつけて舌を這わせれば、「ひあぁ……ッ!?」と高い声を上げては身を跳ねさせた。傷のない肌との境目を、縁取るように丁寧に舐めていく。ちゅうっと音を立てて吸い上げると、は泣きそうな声を上げて目元を腕で隠した。傷を追うように唇で肌をなぞっていけば、その度にはびくびくと震える。恥ずかしさを感じているせいか膣内の締まりが強くなり、くぷりと蜜が溢れた。丁寧に丁寧に傷痕を舌先で嬲る義勇に、は堪えるように身を強ばらせる。ふと思いついて臍のあたりに口付けを落とすと、膣内の指を殊更に意識してしまったのかびくんと身が跳ねて。くちゅくちゅと水音を立てて中を拡げながら、下腹部に繰り返し口付ける。もうだめです、と泣きそうな声で許しを乞うを、義勇はそのまま達するまで責め立てた。
「……ぁ、はぁッ、はッ……、」
「よく頑張った、」
顔を隠すの腕をそっと掴んで退けさせ、義勇はに口付ける。耳も頬も真っ赤に染まって、汗や涙で肌を濡らして。瞳は溶け落ちそうなほどに潤み、未だ慣れない快楽で達したあとの戸惑いと羞恥に揺れていた。ぼんやりと蕩けた表情で義勇を見上げ、口付けに応えて嬉しそうに目を細める。たまらなく、愛らしいと思った。
「……」
続けていいか、と義勇は静かに問う。いつもなら、ここで終わりだ。口付けを交わして、心地よい気怠さの中で、互いの存在を感じながら眠りにつく。それでも幸せだった。それだけでも満たされる。優しいだけの情交で確かに満たされているのなら、敢えて痛みを与える必要など無いのではないか。そう、思っていたけれど。
「ぎゆうさま……つづき、したい、です」
さいごまで。くださいと、緊張で震えながらもは義勇の頬に手を伸ばす。痛いのも、恥ずかしいのも、こわいのも、ぜんぶ。求めているのは義勇だけではないと、拙い言葉で懸命に訴える。もっと一緒にいたい。もっと深く繋がりたい。もっと、もっと互いの唯一で在りたい。こんなに欲深いことを恥じながらも、求めてしまう。も同じだと、を求めることを躊躇う義勇の手を引く。考えすぎて動けなくなる義勇の背中にぶつかるのはいつだってだから、義勇は前に足を踏み出せる。何もかも足りない命が目の前でちかちかと燃え尽きそうに瞬くから、だから目を離せなかった。見ていられなかったなどと、真逆のことを言って。は思慮が足りないというより、迷っていられないのだ。明日も明後日も義勇の隣にいられる保証などどこにもないから、だからいっそ向こう見ずなまでに真っ直ぐに駆けるしかなかった。きっと誰かはそれを、哀れと呼ぶのだろう。けれど義勇にとっては、のそれは痛々しくも健気な愛だった。
「痛いの、こわくないです……だから、ください」
破瓜に伴う痛みは、説明してあった。指を入れるだけでも最初は痛かっただろうに、怖くないなどと。誰よりも怖がりなくせに、人一倍臆病なくせに、義勇に与えられるなら痛みすらも怖くないと。弱々しくも笑うの震える手を、義勇はそっと握り返した。
「力を、抜いていろ」
「は、はい」
指を絡めるように手を繋いで、額に口付ける。膣内から指を引き抜いて、くぷっと水音のしたそこに先端をあてがう。温かくぬかるむそこに昂りを沈めるのだと思うと、どくどくと動悸が煩く鳴り響く。興奮と、些かの緊張。少しずつ膣道を拡げて押し進めていくと、裂かれるような痛みにが目を見開いて義勇と繋いだ手に縋る。唇を噛み締めたの体は痛みに対する反射で固く強ばってしまっていて、義勇は少しずつ腰を進めるたびにに口付けた。舌を絡めて、何度も吸い上げる。指とはわけの違う質量が進入しているのだから、痛くて当たり前だろう。できるだけ慣らしたつもりではいたが、は未通女なのだ。可能な限り痛くないようにと、子どもをあやすように宥めながら少しずつ、もどかしいほどゆっくりと進めていく。それでも体格差のせいかは苦しそうで、息を荒らげて必死に義勇を受け入れようとしていた。
「ぅ、ッ、」
「、大丈夫か、」
「はッ、ぁ、はい……ッ、」
ぎちぎちと、拒むように押し返すそこは本当に狭くて、義勇も思わず眉根を寄せる。それでもきっと、の方がずっと痛くて苦しいのだ。止めないでほしいと、強くの目は訴える。涙を浮かべながらも、苦しさにはくはくと口を開閉させて浅い呼吸を繰り返していても、それでも欲しいとの眼差しは訴えていた。
「、」
「っ、はい、」
「……、欲しい」
ぽろりと、言葉が転がり出た。瞠目したの腰を掴んで、ぐっと押し進める。何かに引っかかったような感覚がして、ぶちりと破いてしまったそれはきっとの純潔だったのだろう。堪えるような声をあげたの指が、痛みを逃がすように動く。きっと、喰らうとはこういうことなのだ。ひとつになって、奥の奥まで互いのものになる。幸福と定義するには危うい情動は、しかし確かにどうしようもないほどに気持ちよかった。とろとろと潤う膣内が、うねるように絡みついて。くらくらするほどに、気持ちがいい。義勇も気付けば荒い息をしていて、初めて知ったという女の柔らかさと温かさに、血が沸騰しそうなほどの興奮を感じていた。焼き切れそうな理性をどうにか繋いでゆっくりと腰を進めると、ぐちゅ、と淫猥な水音を立ててのそこが義勇のものを咥え込む。はぁはぁと浅い息を吐き出すの唇は、血の色が強く出て艶めいて見えた。何度も口付けて吸い上げたせいで少し腫れているそこに、また口付ける。ようやく奥まで収まったときには、も義勇も互いの息を求めるように唇を重ねていた。
「……ぁ、」
「、」
ぽろっと零れ落ちた涙を拭い、義勇はを抱き起こす。を抱え込むような形で座った義勇は、の痛みが落ち着くまで背中を軽く叩いたりさすったりを繰り返した。繋がった幸福感と、どこかほの暗く胸を満たす独占欲。自分の中にあった感情に戸惑いながらも、を抱き締めて義勇は表情を緩める。義勇の腕の中で、義勇に満たされて、痛みすら愛しくて、はふわりと脆い微笑みを浮かべた。自重でより深く陰茎を呑み込んでしまった胎が、ぞわぞわと疼く。義勇の胸に縋りついて、は必死に息をした。
「はッ、はぁッ、」
「まだ、痛むか」
「……っ、だいじょうぶ、です、」
息を飲み込んで返事をしたの言葉は、きっと嘘だろう。重なる肌から伝わる鼓動は、全力で駆けた後のように速い。義勇は繋がったそこに手を伸ばして、の陰核を指で探る。びくりと跳ねたの痛みを快楽で和らげようと、繋がったそこから溢れる液体を掬って陰核に擦り付けた。
「ッ、ぎゆう、さま、」
気を遣わなくてもいいとでも言いたげに見上げるの胸に、頭を埋める。確かに今すぐに動けば、義勇はもっと気持ちいいのだろう。温かく包み込まれる緩やかな快感だけでは飽き足らず、奥を突き上げて果てたいという本能的な欲はじりじりと理性を焦がす。けれど、が痛いだけでは意味が無いのだ。
「ひ、あっ、」
薄い乳房に吸い付いて、敏感になった小さな突起に舌を這わせる。乳首も陰核も、丁寧に愛撫して。が感じるほどに、内壁がうねって義勇を締め付ける。堪えるように大きく息を吐くと、息が当たったことで感じたのかが身を震わせた。逃げるように腰を引かせるが、中で擦れる感覚に驚いて弾かれるように義勇に縋りつく。を抱き締め返すように腕を回した義勇は、そっとの臀を掴む。ふるりとは震えたが、離れようとはせずに逆にぎゅっと義勇の首に抱き着いた。そんな些細なことにさえ、愛しさは膨らんで。
「……俺の肩を噛んでいろ」
「え、」
戸惑うを、下から持ち上げるようにして揺さぶる。腰を上下させて、奥まで何度も突き上げて。最初は義勇の言葉とはいえ躊躇うように義勇の肩にそっと唇を押し当てていただったが、義勇がの弱いところを探るように動き始めるとびくりと肩を跳ねさせた。腰を抱いて持ち上げて、浅いところを先端で押し撫でる。指で性感を覚えさせられたところを強く突かれて、はぎゅっと自らの唇を噛み締めた。ぷつりと切れた唇から赤色が流れるのを見て、義勇は「」と眉間に皺を寄せる。
「誰にもお前の身を傷付けさせるな、それがお前自身であってもだ」
「……で、でも、」
「俺の他に、それを許すな」
義勇の言葉に、がぱちりと目を瞬いた。ただでさえ赤い頬を更に赤くして、義勇の肩にぎゅっと縋りついて顔を埋める。自分の言葉の何にが照れたのかわかっていない義勇は、きょとんと首を傾げるが。ちろ、と確かめるように肩を舐められて、義勇はびくりと身を震わせた。そのままかぷりと遠慮がちに食まれて、本当に時々犬のようなところがあると思ってしまう。それも呆れているわけではなくむしろ可愛いとすら思っているのだから、末期なのだろうが。
「歯を立ててもいいから、唇は噛むな」
従順に頷くを抱え直して、再び弱いところを突き上げる。「ふぁ、」と耳の近くで聞こえた甘い声に、義勇はぞくりと下腹部に熱が集まるのを感じた。声を出したがらないは情事の最中よく唇を噛んで堪えてしまうから、義勇の肩を噛んでいいと言ったのだが。咥えたはいいものの歯を立てるのを躊躇い、普段堪えている声が漏れて。膣内が擦れるたびに、小さくも甘い吐息が義勇の耳元で聞こえる。聞き慣れない分余計に欲情を煽られて、乱暴にならないように抑えるので精一杯だった。何度も奥へ突き込んで、焼け付くような熱が体の中に渦巻いていく。柔く義勇の肩を甘噛みしたの歯の感触に、何かがせり上がるような感覚を覚えて。陰茎を引き抜く間もなく、どぷりと白濁が溢れ出す。腰が震えたが、義勇はどうにかの胎から自らを引き抜いた。目の前で白濁液を吐き出した陰茎を、は凍り付いたように固まって見下ろしていて。少しだけ精液を受け入れた腹を無意識か、さす、と撫でたにぶわりと熱がぶり返した。
「……、」
仰向けに押し倒して、内腿を掴むようにして足を開かせる。顔をそこに近付けると、脇腹の傷の時とは比ではなくが狼狽えた。
「ぎ、ぎゆうさま……?」
「少し中に出してしまったから、」
言い訳のように告げて、愛液に濡れた陰唇に舌を這わせた。悲鳴にも似た嬌声を上げたは、義勇が汚れる、と泣きそうな声で許しを乞う。白濁の交じる愛液を啜り、義勇は「俺がお前を汚した」と囁いた。
(ぎゆうさま、なんだか、)
案外独占欲が強いと、誰かが見たならそう語るだろう。けれどそれを言い表す言葉をは持たなかった。どこかぞくぞくと背筋が震えて、義勇のものになったということに喜びにすら似た感情を覚えている。知らないことだらけで、けれど全部義勇が教えてくれる。きっとこれを幸せと呼ぶのは、少し違うのだろう。けれどこの幸せが愛おしくて、はふにゃりと零れるような笑みを浮かべたのだった。
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