「やっ、いやです……ッ!!」
泣いても喚いても、実弥はちっとも止まってくれようとはしなかった。たまたま刀鍛冶の里で、鉢合わせて。その晩部屋に訪ねてきた実弥は、用を問う間もなくを布団に投げ飛ばした。大きな体でのしかかって、の浴衣を剥ぐ。大きな声をあげようとすれば、がりっと首に噛み付かれた。怯えたに、「大人しくしてろォ」と脅すように低い声で告げて。押し退けようとしても、びくともしない。義勇に体術の稽古で抑え込まれたときと、同じような圧迫感。けれど実弥は、義勇とは違って恐ろしいのだ。ぎらついた目も、熱い体温も、何もかもが怖い。怯えに縮こまるの首筋に滲む血をべろりと舐めて、実弥はの顎を掴んだ。
「口開けろ」
開けろと言いながら、既に指をねじ込んでこじ開けている。息苦しさに眉を寄せたにお構い無しに、実弥は顔を近付けて。そして、がぶりと噛み付くように唇を重ねた。
「ッ!?」
呼吸を奪われ、は目を見開く。朧気ながらも知っている接吻の意味と実弥の行動が噛み合わなくて目を白黒とさせるを見下ろし、実弥は笑う。まるで捕食者のような、獰猛な笑みだった。
「おい、へばってんじゃねェよ」
をうつ伏せに組み敷いて、実弥は高く突き上げさせた尻に腰を打ち付ける。訳もわからないままに純潔を奪われたが痛みにぐすぐすと泣いていると、実弥は容赦なくの尻を打った。
「ちゃんと尻尾振れよォ、犬っころ」
ずぷずぷと、腹の中を前後する質量。裂かれるような痛みを、腹の中を埋められる圧迫感が上塗りする。何をされているのかわからなくて、ただ痛くて苦しい。拷問かと思うほどにただ苦痛しか感じない行為に、は必死に腰を引かせて実弥から逃げようとした。それもあえなく引き戻されて、余計に奥まで強く穿たれて苦しくなる。ひゅうひゅうと嫌な音を立てる喉は、時折呻き声にも似た無様な声を漏らした。皺がつくほどに布団を握り締めて、必死に耐えようとする。ぼろぼろと溢れて零れ落ちた涙が、布地に丸い染みを作った。
「鳴いてみろよ、『実弥様』ってなァ」
全身でのしかかるようにに覆い被さって、実弥が耳元で囁く。ぞわりと震えた背筋を抑え込むようにぶんぶんと首を振れば、実弥はの喉に手を回した。柔い喉に指先を食い込ませるように喉を掴んで、「言え」と。それは最早命令の体だったが、従ってしまいそうになるのを堪えてはぐっと口を噤んだ。途端に喉に食い込んだ指先が、呼吸を圧迫する。本能的な危機感で強ばったの膣内が締まり、実弥は湿った吐息を漏らす。耳元に吹き込まれた熱にぶるっと腰が震えて、はわけのわからない感覚に怯えてカタカタと震えていた。とんとんと嬲るように喉を突く実弥の指先が、自分の形を覚えさせるように胎の中を動くそれが、怖い。従ってしまえばきっと楽だ、従属して受け入れればきっと怖くはなくなる。けれど、それを許してはならないと本能が訴える。この行為の意味がわからずとも、本意でないものを許してはいけないということだけは強く感じていた。けれど。
「いい子にしろよォ、」
ぞくっと、腹の底が震えた。きゅうっと胎が締まって、喉の圧迫感すら何か違う感覚へと変わっていく。がぶりと肩を噛まれて、上擦った声が出る。血が出るほどではない強さで噛まれて、どうしてかお腹の底が疼く。そのまま実弥は、場所をずらしながら何度もの肌を食む。がじ、と首の後ろを噛まれて、痺れるような感覚が背筋を駆けた。
「うぁ、」
「噛まれて感じてんのかァ?」
愉しんでいるような声が、直接肌に響く。実弥が腰を押し付けるように動くと、中で擦れてまた変な声が出た。痛いのに、苦しいのに、お腹の奥がぞわぞわと震える形容し難い感覚までを苛む。ぐちぐちと音を立てて腰を押し付ける実弥にうなじも喉も抑えられて、理性が伏してしまいそうになる。本能は従いたがっている、だって元来はそういう生き物なのだ。強い誰かに隷属した方が安心する、そういう本質に抗うのは苦しくてつらい。けれどこれはダメなのだ、きっとダメだ。戻れなくなると、頭のどこかで警鐘が鳴る。腹を見せれば、もう二度と実弥から離れられなくなる。それがわかっているから必死に堪えているけれど、本当につらいのだ。欠けているところを埋められるのがこんなに気持ちのいい充足感を得られるものだと、は知らなかった。知らなくても、生きてこられた。ああ、でもきっとこんなもの、知らない方が良かった。こんな溺れるような安息を知るくらいなら、子どものままでいた方が良かったのだ。お腹の奥が、切なくてつらい。求めればきっと満たされるのだろう、実弥はきっとを生涯の唯一にしてくれるのだろう。はそれで、いいのだろうか。苦しくて、お腹の中が実弥でぎちぎちに満たされていて、上手くものを考えられない。浅い呼吸で酸素が足りなくて、思考が霞む。実弥が、の下腹部をさするように撫でる。胎内に埋められた質量が鮮明に感じられてしまって、は喘ぎとも呻きともつかない声をあげた。
「ぁ……」
「余計なこと、考えてんじゃねェ」
「っ、でも、」
「どのみちもう戻れやしねェよ……ッ、」
追い打ちをかけるように、膣内で実弥のそれが脈打つように痙攣する。びくりと反射的に逃げ腰になるを押さえ込んで、実弥は小さく呻いた。ようやく止まった実弥に安堵する間もなく、どろりとした熱が広がる。
「ぇ……?」
びくびくと痙攣するそれから、吐き出される熱。腹の中に広がっていくそれが怖くなって、押さえつけられた腰を必死に捩って逃げようとするけれど実弥の手を振り解けるわけもない。どころかぐりぐりとそれを刷り込むように実弥が動いて、譫言のように「やだ、」と繰り返すことしかできないままその熱を注ぎ込まれていく。知らない熱にぞわぞわと震える胎が怖い、どこか満足げに息を吐き出す実弥が怖い。ぽろぽろと零れる涙を、実弥の舌が舐め取った。鼻先をくっつけるように、実弥が顔を寄せてを抱き締める。
「」
「……、」
「呼べェ」
短い言葉ながらも、実弥の命じるところはわかっていた。ぼんやりとする頭は、にひどいことを強いながらも甘えるように肌をくっつける実弥に困惑していて。それでも何故か実弥の体温に安息を覚えて、気付けばは口を開いていた。
「……さねみさま、」
ぽろりと転がり出た言葉に、実弥は口の端を吊り上げて笑う。ぎゅうっと抱き締められて、またむくりと腹の中で質量が膨らんで。腹の奥を突き込まれて、変な声が出る。けれどそれはもう、苦しいだけではなくて。うなじを噛まれるのにも、どうしてか甘い疼きを覚える。あまりにも強引な交合に体は疲弊していたけれど、それでも実弥がの特別な何かになったのは理解できた。それが生涯、実弥とに刻まれた傷になることも。
「一生大切にしてやるよ」
傲慢なその言葉は、けれど本心なのだろう。の喉を撫でて、実弥は笑う。一度契った相手から離れない狼のように、実弥はを大事にしてくれるに違いなかった。そして、も実弥にそうするのだろう。受け入れてしまったことを、頭が理解していた。実弥が口元に差し出した指を、かぷりと食む。それにどうしてか嬉しそうにする実弥の笑い声は、妙に幼く思えたのだった。
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