「鮭大根ばっか食ってっからチビなんだよォ、肉を食え」
「は、はい……」
「野菜も食え、白菜好きなんだろォ」
「えっ、あっ、はい」
は実弥に困惑していた。まず第一に、距離が近い。第二に、おそろしく優しくて世話焼きだ。そして、自覚のなかった好物を言い当てられた。鍋からひょいひょいと煮えた肉や野菜を取り分けてくれる実弥は、隣でがはふはふと食べ始めると満足げに自分も鍋に箸をつけた。空腹に正直に食事を進めながらも、の思考回路はぐるぐると混乱しながら回っていた。気絶するまで抱き潰されたは、驚愕するほど優しく実弥に起こされて。昼餉に呼ばれていると教えてくれた実弥は、痛みと疲労で動きの鈍いを抱えて運んでくれたけれど。何が起こったのか、正直なところよくわからない。実弥にとても痛くてわけのわからないことをされて、けれどどうしてかそれが気持ちよくなってしまって、実弥に求められるままに何度も名前を呼んで。思い返せばものすごく恥ずかしくなって、ぼっと頬が熱くなる。「風邪かァ?」との頬に手を当てた実弥にびくりと震えたが、それは怯えというよりも単なる驚きだった。心のどこかが、実弥を受け入れてしまっている。というより、なぜこんなに近い上に優しいのだろう。今まで義勇の背後から見ていた不死川実弥という人間と今目の前にいる実弥の人物像が噛み合わなくて、ふるふると首を振って不調を否定しながらも困惑は消えない。「ならいい」と笑った実弥の表情はびっくりするほど優しくて幼くて、はぽかんと口を開けてしまった。
「何アホ面してんだァ」
「え、えっと……さ、実弥様……」
「なんだァ?」
「……な、なんでもないです……ごめんなさい……」
何か言わなければいけない気がして、けれど何を言えばいいのかわからなくて。呼んだのに何でもないと言ってしまったことを怒られるかもしれないと思ったが、実弥は妙に上機嫌にの頭を撫でる。始終そんな調子の実弥に戸惑いながら、は実弥に世話を焼かれつついつもよりたくさんの量を胃に収めたのだった。
「……えあっ!?」
「間抜けな声だなァ」
実弥に抱えられて、彼の部屋に連れて行かれて。そこに敷かれている布団が二組あることに驚いたは、思わず実弥の腕から落ちそうになってしまった。危なげなくを抱え直した実弥は、「どうせひとつしか使わねェだろうけどなァ」と言いながらぽすりとを布団に下ろす。よく見れば、の荷物もこの部屋に移動させられていて。自分などが風柱と同室になってはいけないのではないだろうかとか、そもそもどうして同室になっているのかとか、の足りない頭はぐるぐると焦げ付くほどの速さで混乱し始める。の疑問を見て取った実弥は自分がそう手配したのだと告げたけれど、は余計混乱するばかりで。手拭いや風呂桶を揃えた実弥は、またをひょいっと抱き上げた。
「恋仲なんだから、別に驚くようなことでもねェだろ」
「こ、こいなか……!?」
「今更なかったことにしろなんて言わせねェぞォ、俺に尻尾振っただろうが」
「あ、あれはそういう……?」
「……どういう教育してやがんだ、クソ冨岡ァ……」
義勇への突然の罵倒に抗議しようとするけれど、顔面を掴まれる。ちっとも力の込められていないそれに「わぷ」と間抜けな声が出たけれど、実弥はの顔面から手を離して腰を抱いた。真剣な顔をしてを見下ろした実弥は、の鼻先をがぶりと噛む。
「い、いたいです、」
「覚えとけよォ、。テメェの男が誰なのか」
ぞくりと、腹の底が震える。けれどそれは怯えではなく歓喜に近いそれだと、の本能は解ってしまっていた。頬を擦り寄せられて、首を齧られて、唯一の存在を刻み付けられた本能が反応する。ああ、は実弥のものなのだ。今更遅い、もうとっくに奪われている。どんなに強引だろうが無理矢理だろうが、は実弥に応えてしまったのだ。心臓が、どきどきとうるさい。実弥は優しくなったのではない、を番った雌として扱うようになっただけだ。懐に入れられたから、こんなにも丁寧に扱われる。実弥のしたことは、きっと人間としてはとても酷いことなのだろう。人としてはあまりに傲慢で非道な行いは、けれど弱い者は奪われる自然の中では当たり前の摂理だ。ぺたりと尾を伏せて実弥に喉を食まれることを、これからは幸福として生きていくのだ。それが、実弥に応えたということだった。
「あっ、や、やぁ、んッ、」
ぴちゃぴちゃと、わざと音を立てて実弥はの陰部を舌で嬲る。ここは外で、声を抑えなければと思うものの耐えきれずに漏らしてしまう。水音は決してお湯の跳ねる音だけではない。温泉の縁の岩にべたりとの上半身を伏せさせた実弥は、突き出させた尻に顔を埋めるようにして秘部を舌で荒らしていた。脚はお湯の中にあるせいで、下半身から熱が上ってくる。誰が来るともしれない中でこんな行為に耽ることの羞恥に、は必死に実弥にやめてくれと懇願した。「誰も来ねェよ」と笑った実弥は、止まるどころか舌を膣内に挿入して蠢かせる。すんすんと陰部の匂いを嗅ぐ実弥に羞恥は膨らむ一方で、それなのに恥ずかしいと思うほどにきゅうきゅうと締まるソコから愛液が溢れてしまう。太腿をしっかりと抱え込んで逃げられなくしたの秘部を、厭らしい音を立てて実弥は貪る。びちゃびちゃとかじゅるじゅるとか、そんなわざと響かせるような音には恥ずかしさで頭が沸騰してしまいそうだった。実弥の爪が、太腿の柔らかい肌に食い込んで爪痕を残す。異性の裸を目にする機会すらそうそう無かったのに、まぐわいというらしいそれを知らないままに強いられたのはつい昨日のことだ。男を知ったのも初めてなのに、まだ日の高いうちからこんな、誰が来るかもわからない外ではしたない行為に及んで。実弥が「暫く寄るな」と人払いを済ませていることなど知らないはお湯の熱さだけではない熱に顔を赤くしていたが、知っていても同じことだっただろう。一生懸命声を堪えようとするけれど、ひんひんと情けない声が溢れてしまう。体が熱くて、痺れるように背筋が震えて、おかしいのだ。実弥の舌が愛液を啜り、秘裂をいたぶる。腰が浮きそうになるその感覚は「気持ちいい」と呼ぶのだと実弥は教えてくれたけれど、頭の中がふわふわと真っ白になっていくその感覚はただただ怖かった。
「さねみさま、っあ、実弥さま、」
「ハッ、雌の匂いがするなァ」
わからない、そんなものはにはわからない。ただ実弥のくぐもった声が胎に響いて、くぷりと蜜が溢れるのが自覚できてしまった。岩にぺたりと伏した腕に顔を埋めて、必死に羞恥に耐える。が知っている気持ちのいいことなんて、稽古の後に汗を水で流したときの爽快感だとか、冬の日に火鉢に手をかざしたときのぽかぽかとしたぬくもりだとか、義勇や鱗滝たちに頭を撫でられることへの安堵だとか、そんなことばかりだったのだ。こんな粘着質で暴力的な快感など、知らなかった。けれどの本能と体は、それを悦んで受け入れている。番の雄に触れられることで、熱の籠るような歓喜を得ていた。
「ッん、さねみ、さま……」
「ンだァ?」
「き、きもちいいの、こわい、です……ッ」
喘ぎながら涙を零して縋るように言うに、実弥がぴたりと動きを止める。けれど太腿を掴んでいた手にはぐっと力が籠って、外気に晒すように押し広げられた。ばしゃんと音を立てて立ち上がった実弥に見下ろされているのだと、視線を感じてぞくぞくと背中が粟立つ。
「……一丁前に煽ってんじゃねェ」
「ひゃあっ……!?」
ずぷりと、剛直を突き立てられた。尻を掴まれて、ぐぷぐぷと深く穿たれていく。解したとはいえ狭いそこにこめかみの血管を浮き上がらせながら、実弥は腰を一息に奥まで押し込む。
「優しくしたかったのによォ……」
「あ……あぅ、」
ぐり、と奥に押し付けられたそれは、もう既にびくびくと脈打っていた。がちがちに張り詰めた熱が、の中を埋め尽くす。昨日ほどの痛みはなかったが、それでも苦しくて。逃げたくても、逃げられない。ぱん、ぱんと肌のぶつかる音がする。粘ついた水音を立てての胎を犯すその熱のかたまりは、明確にを喰らう意図を持って動いていた。
「あんまりキツく咥えんな……ッ」
「む、むりです……ぅぐ、」
子宮口を押し込むように、実弥が奥を突く。苦しいけれど、実弥はそこばかり突き上げる。ぎゅうぎゅうと締め付けてしまうことに実弥が眉を寄せるけれど、苦しくて体が強ばってしまうのだ。それでも実弥は、ぐぽぐぽと抜き差しするのをやめない。大きな質量が抜かれるたびに喪失感を覚えて、けれどすぐに埋められる。尻を突き出すような格好のせいで繋がっているところが実弥に丸見えで、必死にそのことから意識を逸らそうとするのに「よく見えるなァ」と実弥が意地悪く笑うのだ。腕を噛んで堪えようとするを、容赦なく実弥は揺さぶる。何度も奥を突かれていくうちに、何だか頭がふわふわとしてきて。
「うッ、」
「あ……」
びゅる、と精液を注がれて、気の抜けた声が漏れる。ぴったりと腰を押し付けた実弥は、長い射精の間一滴も零すまいと監視するかのように結合したそこを睨み付けていた。ぐりぐりと、子宮口をこじ開けようとするかのように先端を擦り付ける。びくりと痙攣するの胎を数回に渡る射精で汚して、実弥は長い息を吐いた。
「、孕んだかァ」
「……え、」
「何の為にシてると思ってんだよォ」
「あ、あの、そんなの、わからな……ぅんッ!」
そんなのこの場でわかるはずもないし、そもそもは妊娠など望んでいない。ごく当たり前の答えを返したはずなのに、実弥は舌打ちをしてまた動き始める。体重を全てかけるようにのしかかられ、厚い胸板がの背中を圧迫した。
「あっ、あぅ、ふ……ッ、」
グチュグチュと、白濁を掻き回して実弥のものがの中を出入りする。息苦しさは変わらずとも、怖いくらいに気持ちがよくて。密着した肌から、高揚が熱病のようにに伝播する。もう無理だと、岩に爪を立てるを窘めるように実弥がその手を絡め取った。それはきっと優しさだった。所有物に対する、傲慢な優しさ。それに歪な安心を抱いてしまった自分は、熱に狂わされてしまったのだろうか。それでももう、は実弥のことを嫌いにはなれないほどに絆されてしまっていたのだった。
190506