何をしても怒られないというのは、羨ましがられるようなことではない気がする。がそう言うと、目の前の子どもは口を尖らせてしまったけれど。
「えー、絶対そんなことないよ」
いいなあ、と友達であるその子は言う。着物を汚しても、鞠を失くしても、嫌いなものを食べなくても、怒られない。「私のお母さんだったら絶対怒るよ」と言われても、の表情は晴れなかった。
――ちゃんは可愛いなあ。
が泥だらけの着物で帰ってきても、もらったばかりの鞠を失くしても、ぐいぐいと食べものを押し付けてくるのが鬱陶しくて引っ掻いても、童磨はそう言ってでれでれと笑うだけだ。に、親はいない。強いて言うなら童磨が親のようなものなのだろうが、世間一般でいう親とは随分違っている気がした。童磨はが何をしても怒らない。ただ可愛い可愛いと、抱きしめて撫でられるだけだ。けれど、それが良いことだとは思えなかった。どうしてそう思うのかはわからない。けれど、いつだったか屋敷の誰かが「お嬢様は、もう少しばかりお淑やかだといいですね」と仕方なさそうに笑って、の額を弾いたことがあった。は自分が着物を泥まみれにしたから怒られて当然だと、むしろ当たり前の叱責を受けたことに安心したような気持ちさえ抱いたのに。それなのに、その人は次の日にはいなくなってしまっていた。童磨に行方を聞いても、「さあ?」としか答えてくれなくて。その日以来、怒られないということには薄気味悪さしか感じられずにいる。
「ちゃん、もう夕餉の時間だよ」
「……どうま」
ざり、と土を踏む音と共に現れたのは、ちょうど思い浮かべていた人物で。伸ばされた手に自分の手を重ねようとすると、「えー、もうちょっと遊ぼうよ」と不満気な声がした。確かに今日は話してばかりでほとんど遊べていなかったと、は一瞬童磨と手を重ねるのを躊躇ってしまって。その手をぐい、と掴んで引っ張った童磨は、にこにこと笑みを浮かべて問うた。
「ちゃん、その子は?」
「……お友だち」
いやに薄ら寒い笑顔に警戒しながらが答えると、童磨は「ふうん」と呟いた。その声は背筋がゾッと震えるほど冷たく響いて、は思わずびくりと肩を跳ねさせる。
「またね」
を抱き上げた童磨は、柔らかい笑みで子どもを見下ろした。戸惑ったように頷いたその子に、もおずおずと手を振る。底冷えするような感覚が、纏わりついて離れなかった。
「あの子はいないよ」
翌日遊びに行こうとしたに、童磨はにこにことしたまま告げた。何を言われたのか一瞬理解が追いつかなくて、はきょとんと首を傾げる。
「あの子はもうここに来ないよ」
「どうして?」
「いなくなったからね」
「……お引越ししたの?」
あの子はそんなこと言っていなかったと、どうして童磨がそんなことを知っているのかと、首を傾げるに童磨は何も言わない。ただ、にこにこと笑っている。それが面白くなくて、はむすっと頬を膨らませた。
「……遊んでくる」
「お友達もいないのに?」
「いるもん」
「いないったら」
「知らない!」
意地悪を言う童磨に腹が立って、は広い庭へと飛び出していく。「生垣を越えちゃいけないよ」といつもの注意が聞こえたが、はぷいっとそっぽを向いた。何だか今日の童磨の様子を、いつかも見たことがあるような。そのことについてもう少しきちんと考えていれば、は自分を取り巻く環境の歪さに気付けたのだろう。
(童磨なんて、もう知らない)
こんなに機嫌が悪いのは、初めてかもしれない。不機嫌のままにずんずんと歩いて、はぷうっと頬を膨らませた。このまま夕餉の時間まで隠れて、童磨を困らせてやろうか。いっそ朝まで隠れて、慌てさせるのもいいかもしれない。いつだって童磨は何もかも知ったような顔をして、には何も教えてくれない。困るのは童磨ではなくてとばっちりを受ける屋敷の人だからと聞き分けよく過ごしてきたが、今日は童磨が謝るまで良い子にする気はなかった。どうせならいつもできないことをしようと考えて、ふと閃く。
――生垣を越えちゃいけないよ。
童磨はの好きなようにさせてくれたが、屋敷から出してくれたことはない。いつも遊んでいるあの子だって、この庭に忍び込んでいるところに出会って友だちになったのだ。を猫可愛がりする童磨が唯一禁じているのが屋敷の外に出ることだったから、もきちんとそれを守っていたけれど。
(外に出てしまおう)
あの子が言っていた。外にはもっとたくさんの子どもたちがいて、みんなで楽しく遊んでいるのだと。大人ばかりのこの屋敷でひとり遊びばかりしていたの、知らない世界。あの子が来れないなら、が行けばいい。簡単なことだ。今までそうしなかったのが不思議なくらい、簡単なこと。そうと決まればの気持ちは途端に晴れやかになっていく。無駄に広い庭を、適当に突き進んで。ぐるりと敷地を囲む生垣を見つけて、弾む気持ちで駆け寄った。怒られるかもしれないという不安は、敢えて目を逸らした。今日はが怒っているから、童磨を困らせるのだ。そんな子どもらしい愚かさから、は生垣を乗り越えようと手をかけて。
「何してるの、ちゃん」
凍り付くように冷たい声が、それを阻んだ。
「どうま、やだ、離して、」
「…………」
何も言わない童磨に、ずるずると引き摺られていく。いつもは抱き上げられて運ばれるところを、足首を掴まれて引き摺られて。地面に擦った腕や頬は、あっという間に傷だらけになった。それでも謝るのは嫌で、意地を張って「離して」ともがくけれど。小さな体にできる抵抗など知れたことで、はあっという間に童磨の部屋に連れて来られた。
「……ふぅ」
小さくため息を吐いた童磨が、を投げ捨てるように布団の上に下ろす。掴まれていたところは赤くなっていて、は庇うように足首を抑えた。這いずるようにして距離を取ろうとしたの背中を押さえつけて、童磨は冷たい声のまま告げる。
「ここから出ちゃダメだって、俺は言ったよね?」
「だって、どうまが……」
「俺のせいにするの? 悪い子だなあ」
ぱしんと、乾いた音と痛み。尻を叩かれたのだと、遅れて理解した。じんじんとした痛みに、咄嗟に両手で尻を庇う。初めて受ける痛みに怯えるを見下ろして、童磨はにっこりと笑った。
「いい子でいてくれたら、折檻なんてしなくてよかったんだけど」
ちゃんは悪い子みたいだから。そう言って、童磨は再びの尻を叩いた。痛みと恥ずかしさで、はぎゅっと目を瞑る。が何をしても怒らなかった童磨が、悪い子だと言ってを詰る。そのことにすっかりは怯えてしまって、耐えられないほどの痛みではなくとも抵抗する気は失せてしまっていた。ただ小さく身を縮こまらせて、痛みと羞恥に耐える。けれど童磨がぺろんと着物の裾をめくると、なけなしの強がりさえも消し飛んでしまった。
「ど、どうま……?」
「お仕置きなんだから、反省しないと意味が無いだろう?」
ただ耐えるだけのを見て、反省していないと捉えたのか。もっと恥ずかしくて痛くなければいけないと、直接肌を晒した。ぷるんと震えた尻は幼子特有の弾力と柔らかさを有していて、触れると程よい反発を返す。可愛らしい尻をばしんと叩くと、は面白いほど簡単に悲鳴をあげた。あっという間に真っ赤に腫れ上がった尻を平手で打つだけで、ごめんなさいと泣く。なんて弱くて可愛らしい生き物だろうと、童磨は口の端を吊り上げた。
「口だけなら、どうとでも言えるよね?」
ふるふると震える尻を撫でて、またばちんと叩く。「ひあッ」と鳴く声が心地良くて、嗜虐心がぞくぞくと疼いた。ごめんなさい、いい子にすると途切れ途切れに泣くは、本当に可愛らしい。実際は、本人の思う以上にいい子に過ごしてきた。甘やかしている童磨としては、いささかつまらないと思うほどに。だから未遂で終わった脱走をここまで責め立てて、体罰など与えているのだ。逃げられては困るが、何も無いのもつまらない。捕まえられる範囲でわざと手を離してみるのは、退屈しのぎのようなものだった。果たしては、童磨の気に入る声で泣く。将来有望だと、下腹部に熱が溜まるのを感じながら繰り返し尻をぶった。
「ほら、ちゃん。反省してるなら仲直りしよう?」
「…………?」
真っ赤になった尻に、自分の熱を押し付ける。尻たぶを両手でわし掴んで、硬くなったそれを割れ目に擦り付けた。不可解な感触には戸惑った様子を見せるけれど、うつ伏せに組み敷かれていては振り向くことさえ儘ならない。桃のような尻に自らの肉棒を挟ませた童磨は、ぬこぬこと腰を前後させた。
「どう、ま……? なんか、ぬちゃって、」
先走りの感触が気持ち悪いのだろう、嫌そうに腰を引かせるを押さえつけて、またばしんと尻を叩く。きゅっと力の入った尻に挟みつけられて、思わず射精しそうになった。
「仲直りなんだから、逃げちゃダメでしょ?」
興奮に息を荒らげて、熱を擦り付ける。小さな尻の穴に時折反り返しが引っかかって、が「ひっ」と肩を震わせるのが面白かった。まだ幼いにいきなり挿入を強いる気など無いが、その時のことを想像してつい昂ってしまう。先走りで濡れた穴に先端をつぷつぷと押し当てると、吸い付くように皺が収縮する。あまり遊びすぎると本気で挿れたくなってしまうと、童磨は荒い息を吐く自らの口元に手を当てて興奮を抑えた。
「……はぁ、」
押さえつけた小さな体に、汚い熱を擦り付ける。柔らかい肌は赤く腫れていて、ひりひりと痛むのだろう。ぎゅっと目を瞑るの眦からは、ぽろぽろと綺麗な涙が零れていた。ぐっと尻を寄せてにゅこにゅこと陰茎を擦り付けるたびに、腹の底に疼くものがある。無垢な尻をべたべたに汚した童磨は、を引き起こすとその口元に硬く勃ったものを押し付けた。
「ひッ……!?」
「これにちゅーしてくれたら、許してあげる」
「……や、やだ……」
ふるふると、真っ青な顔で震えるは力無く首を横に振る。怖いと、気持ち悪いと、童磨の陰茎から顔を背けた。目を逸らせないように顔を両手で挟みつけて、頬に先端をぐりぐりと押し当てる。それでもは、いやいやをするようにむずかった。
「ちゃんは仕方ない子だなあ」
「……んぶッ!?」
固く閉ざされた口に親指をねじ込んで、こじ開けた口に肉棒を押し込む。小さな口いっぱいに陰茎を押し込まれたは、涙目で嘔吐いた。けれど童磨は容赦なく喉奥に先端を打ち付けて、挿入したときのように腰を振る。必死に童磨のものを押し出そうと押し当てられたの舌が、鈴口を擦って気持ちよかった。
「んっ、むぅ、んん゛ッ!」
「そうそう、上手だねちゃん」
股間に小さな頭を押し付けて、ずんずんと突き上げる。幼子相手に手酷いことをしているという自覚は、童磨にはなかった。不可抗力で舌を押し当てるのを、奉仕されているようだと喜んで褒める。ぬぷぬぷと柔らかい内頬や舌に自身を擦り付けて、苦しさにきゅっと締まる喉奥に腰を震わせた。
「あっ、出そう、出るよちゃん……!」
「ん゛ぅ……!?」
ぱんぱんに膨らんだ熱が、小さな口腔で弾ける。びゅるっと吐き出された温い液体に、反射的には顔を上げて逃げようとする。けれど童磨に頭を押さえ付けられて逃げられないの口の中で、ビュルビュルと液体が溢れた。
「全部飲んで、いい子だから」
有無を言わせない童磨の声色に、逆らえない圧力を感じたはいやな味のする液体を何度かに分けて飲み下す。こくりと動いた喉を満足げに見下ろした童磨は、ようやくずるりと萎えたそれを引き抜いた。けほけほと咳き込むの口の端に伝う白濁液を、親指の腹で掬い上げて小さな舌に擦り付ける。
「うぇ、」
「これで仲直りだね、ちゃん」
にこにこと、いつもの笑みを浮かべて童磨はを抱き寄せる。生臭い液体がまとわりつくような感触が口に残って、気持ち悪い。顔もお尻も、べたべたする。こんなのがどうして仲直りなのかと思うけれど、怖くて訊けなかった。可愛い可愛いと頬擦りされて、撫で回されて、これでいつもの毎日が戻ってきたのだろうか。悪いことさえしなければ、もうこんなことはされずに済むのだろうか。いなくなった使用人。遊びに来ない友だち。怒らない童磨。急に何もかもが繋がったように思えて、けれど何も見えない。知ってしまえばこんなことでは済まないような気がして、はおそるおそる童磨を見上げる。優しい穏やかな笑みだけが、を見下ろしていた。
200109