「すまないが、今はそれだと少し足りない」
 杏寿郎の部屋に呼ばれたは、抱き締めて頭を撫でていた杏寿郎に告げられた言葉に戸惑った。からりとした表情だが、杏寿郎は元々苦痛の色をあまり顔に出さない。数日間に渡った任務で相当に疲弊しているのだろうと、おそるおそる首筋を杏寿郎の前に晒そうとする。しかし杏寿郎は、「それも悪くはないが」との腰に手を回す。ハーフパンツをずり下ろして、杏寿郎はの尻をやわやわと揉んだ。
「えっ、あの、杏寿郎様……?」
「深く触れた方が早く終わる、君にとっても楽だと思うが」
 杏寿郎の手が内腿を撫でて、は泣きそうな顔で杏寿郎を見上げる。向かい合わせにを膝の上に抱きかかえている杏寿郎の腕はしっかりとの腰を囲ってしまっていて、多少身を捩ったところで抜けられそうにない。元々センチネルにあまり強くものを言える立場ではないは、それでも懸命にそちらはやめてほしいと懇願するけれど。何かをごそごそと手に取った杏寿郎が、の下着をずり下ろす。抗議する間もなくひやりとした感触が秘部に触れて、は「ひゃっ!?」と高い声を上げて背を反らした。
「ああ、すまない。潤滑剤を使ったのだが、冷たかったか」
「え、あ……」
 ぬるりと冷たく粘着質な液体をまとわりつかせて、杏寿郎の指が割れ目を撫でる。そこは義勇にしか許していない場所だ、他の誰かに触れられるなんて嫌だ。ぬるぬると指先で割れ目を探られて、はぎゅっと唇を噛み締める。
「杏寿郎、さま、そこいや、です……許して、ください……」
 目に涙をためて震える声で懇願するに、杏寿郎はぱちりと目を瞬く。にこりと笑うと、の腰をするりと撫でた。
「すまない、だが安心してくれ。冨岡のしている範囲以上のことはしないから」
「で、でも……」
「君には酷かもしれないが、どうか俺を助けてくれないか。君が許してくれれば、俺はより多くの人を助けられる」
「……っ、」
 それでも嫌だ、そう思うと同時に拒絶を許さない圧を感じてはきゅっと喉が締まった。この社会においてガイドはセンチネルのおまけにしか過ぎず、人々の役に立てるのはセンチネルであってガイドではない。杏寿郎は実際に多くの人を救っている。ができるのは、センチネルの求めに応じることだけだ。複数のセンチネルに共有されるガイドとしてタワーに保護されているが操を立てることの無意味さなど、が一番自覚している。それでも義勇のことを思うと胸が痛くて、葛藤に押し潰されそうなは動けない。それを受容ととった杏寿郎は、くちくちと指先を動かし始めた。
「俺は、君と冨岡の仲を裂きたいわけではない」
「……っ、」
「だがセンチネルとガイドは深く繋がった方がいい、そうだろう?」
 センチネルとガイドは、誰でもバンドになれるわけではない。義勇がそうであったように、杏寿郎も特定のバンドを持たないまま任務にあたっていたらしい。それでもゾーンアウトへと至らないまま功績をあげてきたのは、偏に本人たちの超感覚に頼りすぎない努力の賜物なのだろう。「匂いがする」と、杏寿郎はに言う。センチネルごとに優れている五感はそれぞれだが、優れているのが嗅覚ではなくともその匂いはわかるらしかった。
「君は『特別』の匂いがする」
 義勇のものでなければ正式なバンドにしたかったと、杏寿郎はの鼠蹊部を擽るように撫でて言った。ちらちらと燻るような熱情が肌に伝わって、は身を震わせる。周囲の人間の感情を感じ取れるらしいガイドだが、がそれを自覚し始めたのは最近のことだ。義勇とバンドとしての関係を深めていくほど、その能力は強まっているようで。けれど、杏寿郎から伝わる焦がすような熱は少し怖い。ぬるい液体を纏わせた指が執拗に割れ目をなぞって、は必死に声を堪えていた。
「んっ……ふ、ぅ、」
 一時的な関係を結ぶための刷り込みとしては、きっと行き過ぎている。けれどには杏寿郎の良心に縋るほかに抗う手段はない。膣口の周りをぬちぬちと擦る指がそれ以上奥に入らないことを、ただ願うしかなかった。背中に腕を回しての腰を抱え込み、もう一方の手で秘部を撫で続ける杏寿郎の動きにじっと唇を噛み締めて耐える。じんわりと体が火照ってきて、杏寿郎と密着している肌が熱かった。もぞりと腰を引かせるが、逆にぐいっと強く抱き込まれてしまう。杏寿郎の指が引っ掻くように陰核を掠めて、「ひぁッ」と上擦った声が漏れた。じんじんと、擦られている割れ目が熱をもって疼く。潤滑剤の容器を手に取った杏寿郎が、の様子を窺うように顔を覗き込みながらそれをまた傾けた。
「あッ、」
 冷たいのに、熱い。とろりとした液体が伝い落ちる感覚だけで、ぶるりと肌が震えてしまう。逃げ腰のを抑え込む杏寿郎の手のひらも熱くて、じりじりと焦がされていくようだった。指先で液体を掬った杏寿郎が、擦り込むようにくるくると陰核を撫で回す。敏感な花芯をぬるついた指に捏ねくり回され、はほとんど泣きながら電流にも似た鮮烈な刺激をやり過ごそうと身を捩らせた。義勇との行為はいつも優しくて穏やかで、こんな焼け付くような激しさをは知らない。有無を言わせないほどの熱に、ぞくぞくとお腹の底が脈を打つように震える。喰らわれている、とは思う。実弥に首を噛まれたときの感覚にもよく似ていた。自分という存在を、求められて奪われる感覚。それはにとっては恐ろしいことに快楽として感ぜられて、噛み合わない感覚と感情の齟齬にぽろぽろと涙が溢れた。その涙を生理的なものと捉えたらしい杏寿郎は、あやすように目元に口付けて涙を舐め取る。ぬちゅりと粘ついた水音を立てながら、休むことなく陰核を撫でたり引っ掻いたりされて頭が真っ白になっていく。まるで自分のものでないような甘ったるい声が断続的に喉から漏れて、それに満足気に目を細めた杏寿郎の笑みがぼやける視界に映る。ゆるしてほしい、の溶けそうな頭に浮かぶのはただそれだけで、けれどそれを聞いた杏寿郎は「怖がることはない」と潤滑剤だけではない液体で潤った割れ目を優しく撫で上げた。
「ひう、」
「大丈夫だ、。よく濡れている」
 きゅっと陰核を摘み上げられ、は思わず背を反らした。強い刺激に頭を溶かされてろくに言葉を紡げなくなったは、杏寿郎の指先が執拗に割れ目を往復しても嬌声しか上げられなくて。どうにか制止したくとも、ただ杏寿郎の愛撫に悦んで喘いでいるようにしか聞こえない。ずくずくと疼く腹から全身に熱が広がったように体が火照っていて、腰を抑えている手がそっと肌を撫でるだけでも甘えるような声が出てしまう。熱に冒されたような体に泣きながら戸惑うに、杏寿郎は優しい顔をして告げた。
「泣くことはない、。薬のせいだ」
「くす、り……?」
 催淫効果のある成分も混ぜられている潤滑剤なのだと、くちくちと膣口をほぐしながら杏寿郎は優しく言う。気持ちいいという感覚は全て薬のせいだから、罪悪感を抱いて泣くことはないと。丁寧に陰核や膣口に液体を塗り込んでいく杏寿郎の言葉に、ぞっと背筋が震えた。けれど熱に浮かされたような思考では、まともに言葉も纏められなくて。子どもが駄々をこねるような泣き声だけが、溢れては消えていく。つぷりと、呆気ないほど容易にそれはのナカに滑り込んだ。たっぷりと液体をまとわりつかせた指が、の膣内を前後する。「よく濡らしておかなければな」と笑う杏寿郎に、いやいやをするように首を振る。それでもざらついた奥をぐっと擦られればずくりとお腹の底が疼いて、腰が震えた。ぬるついた指が、襞に液体を絡めるようにくるくるとナカで蠢く。奥を突かれて、浅いところを擦られて、ぬぽぬぽと抜き差しされて。真っ赤な顔で必死に嬌声を呑み込んで荒い息を抑えようとするに、杏寿郎の笑みは深まる。熱く潤う襞を濡らしているのは、潤滑剤だけではない。が甘い声を上げて腰をくねらせるたびに、ガイド特有の「匂い」が強く杏寿郎の鼻腔を刺激する。それを深く吸い込んで胸を満たすと、鋭敏な感覚のもたらす苦痛が治まっていくのを感じた。世界の全てが五感を苛むような感覚が治まっていく代わりに、杏寿郎を包む優しい匂いに対しての飢えがじりじりと燻っていく。もっとその柔らかい肌に触れて、純粋な瞳を潤ませて、愛らしい声で鳴かせて。義勇との仲を裂く気がないと言ったのは、嘘ではない。それでも、触れずにはいられない。という救いは、一度手にするとどうにも手放し難かった。
「ん……んっ、あッ、やぁ、」
「我慢しなくていい、
 うわ言のように拒絶交じりの喘ぎ声を漏らすを、抱え直す。杏寿郎の胸に背中を預けさせるように座らせて、力の入らない脚を大きく開かせた。弛緩した体と思考ではまともに抗えないのだろう、の手が弱々しく杏寿郎の脚に触れる。そんな小さな接触にさえ昂って、杏寿郎はの胸元に手を突っ込んだ。可愛らしくツンと存在を主張する尖りに指先を引っかけてこねくり回すと、「きゃんっ」と仔犬の鳴くような声を上げる。再び膣内に指を挿入して浅いところを擦ると、「ゆるしてください」と途切れ途切れには懇願した。
「もう、むりです……ッ、ゆるして、」
「達しそうなのか? 我慢しなくていい」
 ナカに複数の指を入れて、ばらばらに動かす。胸の突起を押し潰すのに合わせて、寂しそうにヒクヒクと震えていた陰核も撫で擦った。
「っ……!」
 ぶるりとの体が大きく跳ねて、柔らかな肉襞がきゅうっと杏寿郎の指を締め付ける。ぶわりと強く広がった匂いが、杏寿郎の胸を疼かせた。達するときの嬌声をどうにか呑み込んだは、肩で大きく息をしてくったりと杏寿郎の胸に背中を預けている。けれどその息が落ち着く前に、杏寿郎は再び指を動かし始めた。
「あっ……!? きょ、じゅろ、さまッ、もう、」
「まだだ、
 硬く張り詰めた杏寿郎のそれを処理して、今日は終わりだと思っていたのだろう。けれど、の首筋に顔を埋めて匂いごと喰らうように吸い付きながら、杏寿郎は再びを責め立てる。
「もっと『俺』を覚えてくれ」
 杏寿郎とは、あくまでも一時的な関係を結んでいるだけだ。決定的なつながりを持つバンドではない。が心を預けている義勇と違って、の存在を貪り消費することしかできない。それでも、杏寿郎の熱を、形を、匂いを、この存在に少しでも刻みたい。それが本能からくる所有欲なのか、杏寿郎自身の感情なのか、答えを出すことは意図的に避けているけれど。杏寿郎がに『特別』を見出しているように、も杏寿郎その人を認識してほしい。「義勇以外のセンチネル」ではなく、杏寿郎という人間を。その手段にこの行為を使うことが、どんなに酷いことかはわかっているけれど。それでもこの人の形をした救いは、決して杏寿郎のものにならないことを知っていた。
「そうだな、二番目でも、何番目でも」
「あっ、……?」
 ぴくん、と跳ねる小さな体。この少女の中で、何番目でも良い。よく思われていないてもいい。ただ、その心に印象を残したいと、強く思っていた。
 
200119
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