任務で疲れ切っていても「ここ」に帰って来られるのは、がいるからだろう。
「…………」
 義勇の背中に頭を預けて、すうすうと眠る。夜中に返り血塗れで帰ってきた義勇の世話を、あれこれと焼いて。腹の虫を鳴らした義勇のために、大慌てで握り飯を大量生産して。黙々と握り飯を食べる義勇の後ろに控えていたは、ぷつりと糸が切れたように眠りに落ちた。確か今日はも任務だったはずだ。義勇の帰りをずっと待っていたのかと、ぽすりと背中に倒れ込んだ重みに申し訳なくなる。せめて鴉を飛ばして先に休めと伝えておくべきだったか。それとも外で適当に一泊してくるべきだったか。ただ帰らなければという気持ちばかりが逸っていたことに、今更気付かされる。小さな頭の重みに、安息さえ覚えていた。
「……傷が」
 を起こさないように抱き寄せると、頬に穿たれたような傷ができていることに気付く。眉を寄せてその傷の具合を診る義勇は、もうこの世からは消え失せているだろう鬼に怒りを抱いた。握り飯を全て平らげた義勇は、小さなの体を抱え上げる。右腕にを抱えて、左手に空になった皿が乗った膳を持って。台所を経由して、義勇の部屋へと向かう。眠りの浅いだが、義勇の腕の中だからか幼子のようにあどけない寝顔を晒してくうくうとよく眠っていた。抱え込んだ体は、義勇が鍛えていることを差し引いてもあまりに軽い。あまりに多すぎる負傷に順応し自然治癒力が人並み以上に高い代わりに、体躯も筋肉も発達しないのだそうだ。複雑な気持ちを抱えながら、義勇はを抱き締めたまま布団に入る。トクトクと鳴る心臓の音が、心地よかった。
(明日も、)
 明日もが、生きていてくれますように。どんな傷を負っても、義勇の元へ帰ってきてくれますように。神でも仏でもなく、腕の中で眠る子どもに、そう願った。
 
190406
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