「、待て、早まるな」
ガタガタと、包丁を握って食材と向き合う。それはどう見ても料理というよりは今から人を刺すそれの持ち方で、義勇は思わずを羽交い締めにして止めた。
「ぎ、義勇さま」
「……何をしていた」
「た、たこ、いただいたのですが、捌き方が……」
わからなかったのか、と義勇は嘆息する。は実のところとても不器用だ。涙ぐましい努力の末に一般人と同等の家事能力を得たが故に、その本質は慣れである。未知のものを前にすると、どうにも不器用たる所以がとてもよく見えた。うねうねと桶の中で動くそれを、義勇は見下ろす。
「……最終的に、どう切ればいい」
「あ、あしと、頭が、別れていれば……」
「わかった」
の手から取り上げた包丁を振るい、義勇は蛸の胴体と脚をさよならさせる。正しい捌き方ではなくむしろ剣術のそれだが、致し方あるまい。あのままでは今日の夕餉は、蛸の惨殺死体になっていたに違いなかった。
「…………」
微笑ましいなあ、と蛸を貰ってきた張本人であるのところの炭治郎は姉弟子と兄弟子に笑みを向ける。蝶屋敷にたくさん届けられた海産物のお裾分けを頼まれて、ここに来たはいいが。わかめを切り分けながら、隣のが切り離されてもなお蠢く蛸の脚と悪戦苦闘する様を横目に見る。そして、義勇がはらはらとすぐ後ろで見守る様も。酢味噌和えになる予定の蛸に胸中で祈りを捧げて、炭治郎も自分の手を動かすのだった。
190407