「十八歳になったらね、」
十八歳になったら何がしたい、そんな他愛のない話をに振ると、は両手を合わせて頬を染めた。
「十八歳になったら、揚げ物も作れるようになるの」
「揚げ物? 料理の?」
例えば年齢制限のかかる作品が見たいだとか、堂々と夜更かしをするだとか。そんな答えを予想していたカナヲは、きょとんと首を傾げた。それに頷いて、はふんすとぺたんこの胸を張る。
「義勇さん、揚げ物は危ないからダメだって、まださせてくれないから、揚げ物だけは義勇さんが作ってくれてるの」
「先生、そういうところは過保護ね」
今日は義勇の帰りが早いから、義勇がから揚げを作ってくれるのだとはニコニコしている。「昨日一緒に下ごしらえしたの」と嬉しそうなに、カナヲもつられて微笑んだ。
「十八歳になったら、揚げ物を解禁してもらうんだ。義勇さんに、もっと色々好きな物を食べてほしくて」
身振り手振りを交えて語るに、カナヲはうんうんと微笑ましそうに頷く。けれど、とカナヲは内心思うところがあった。
(先生、に油を使わせるかしら)
は昔の怪我の後遺症で、どうにも根っから不器用なところがある。いつもの料理くらいならばまだしも、うっかりひっくり返して大惨事が予想される揚げ物をにさせるだろうか。純粋に楽しみにしているは可愛かったから、カナヲはその問いを飲み込んだけれど。奇しくもその予想は、が十八歳の誕生日を迎えた日に当たることになるのだった。
「ノンフライヤー」
「ああ」
十八歳の誕生日を迎えた日。冨岡家に新たに加わった家電を見て、は真顔で段ボールに書かれていた品名を読み上げた。「解せぬ」と顔にありありと書かれているをよそに、昨日からが張り切って用意していた揚げ物の具を義勇はてきぱきと衣につけていく。の好きなエビフライを最初に作ろうと用意する義勇の横で、エプロンを装備したは珍妙な顔をしてノンフライヤーと向かい合っていた。
「……不思議な形をしていますね」
「熱風を循環させるためにそういう形をしているらしい」
「油を使わない機械なんですね」
「無駄な油を使うこともないし、調理後の手間も省ける」
「安全ですね」
「お前が怪我をしないことを第一に選んだからな」
「ありがとうございます……!」
何か違う。何か違うのだが、これも義勇なりの気遣いと心配なのだ。ちょこんと台所に鎮座する機械をまじまじと見つめ、はぺしっと両手でノンフライヤーを挟んだ。
「これからお世話になります」
「ああ」
気に入ったようで何よりだと、義勇は目元を和らげた。のちょっとした野望は潰えてしまったが、義勇が嬉しいのならいいかとはノンフライヤーを見下ろす。こういうところは自分たちも子どもと大人なのだなと、改めて思ったのだった。
200216