犬や猫がじっと宙を見ているとき、そこには人に見えない何かがいるらしい。そんなどこかで聞いたような話を、を見ていると思い出す。
「…………」
任務で訪れたとある屋敷で、座敷に通されて。家の主人を待つ間、傍に控えているはじっとある一点を見つめていた。義勇の目にはただ畳と襖が映るのみだが、果たして。他人には感情が読み取りにくいとよく言われるその目には、憐憫と嫌悪が入り交じった色が浮かんでいる。
「……この家は好かないか」
「……はい」
が何を見ているのか、義勇が問うことはない。も、その目に映るものを人に語ることはない。ただ義勇は、の目に映る世界が自分とは違うということを知っていた。
「長居はしない。 ……聞き込みは主人よりも、家の者にした方が良さそうだ」
「わかりました」
それだけ言うと、また沈黙が下りる。やがてやってきた家の主人は、にこにこと愛想良く応対してくれたが。毒にも薬にもならない情報ばかり長々と話す主人を、義勇はただじっと見据えていた。隣のは、先程よりも嫌悪の強い目を主人に向けている。感情を隠せないのはの短所だが、義勇でもなければの表情から感情を読み取ることはできない。大人しく控えていられるだけ上出来だと、義勇は主人である男の話を淡々と聞き流していた。
果たしてその家の主人が鬼に鬼殺隊の隊士を売り渡していたと知れたのは、怯える使用人への聞き込みを経てのことである。座敷の下に埋められていた何本もの日輪刀の残骸に、は静かに手を合わせていた。
200225