(大福が三つ)
 もふ、と膨らむ両頬と、口に咥えられた大福。幸せそうに大福を頬張るを見て思ったのは、そんな他愛のないことだった。好奇心の赴くままにの頬をつつくと、義勇が大福を欲しがったと思ったのかが大福の乗ったお盆を差し出す。「くれるのか」と問うてみると、はこくこくと頷いた。
「そうか」
「……!?」
 かじ、と義勇が齧り付いたのは、お盆の上の大福ではなく。咥えていた大福の反対側を齧られ、は大福ひとつ分の距離の近さに目を白黒とさせて驚いていた。白い肌が、ほんのりと色付くように赤く染まっていく。それでも義勇から目を逸らせないのがの可愛いところで、義勇がもぐもぐと大福を食べ進める間、真っ赤な顔のままおろおろと義勇を見つめていた。
「……甘いな」
 呆然とするが、齧り取られて小さくなった大福をごくりと飲み込む。唇についた粉を親指の腹で擦りながら呟くと、の目にみるみるうちに涙の膜が張る。
「ぎ、義勇さま」
「どうした」
「わたし、し、死んじゃいます」
「なぜ死んでしまうんだ」
「心臓が……破けてしまいます、どきどきしすぎて」
「……それは困る」
 頬を押さえてぎゅっと目をつぶるを、義勇はそっと抱き締める。「ひえっ……!?」と奇声を上げたの心臓の音は、なるほどバクバクと激しく脈打っていた。
「な、な、なんで、」
「破れないように、押さえている」
「う、うぅ……」
 ぷしゅう、と顔から湯気が出そうなほど赤くなって目を回したは、諦めたように脱力して義勇の胸に頭を埋める。満足気にその頭を撫でて、義勇は二個目の大福を手に取ったのだった。
 
200226
ひいらぎさんからいただいたイラストに心底からの感謝を込めて。
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