「…………」
はぐはぐと、茶屋でおはぎを頬張る。ここに義勇がいれば、わかりづらくも幸せそうな雰囲気を纏うに眉間の皺を緩めていただろう。給金の使い途があまりわかっていないの、ささやかな楽しみである。にこにこと店主の老婆に見守られながら、は二個目のおはぎに手をつけた。そんなに、突如影がかかる。
「んだァ? 冨岡んとこのちんちくりんじゃねえか」
「ひっ……!?」
見上げれば、風柱の不死川実弥がを覗き込んでいて。鋭い眼光と低い声に、はおはぎを持ったまま震え上がった。まずもって実弥はとにかく見た目が怖いのだ。おまけに、義勇のことが気に入らないようで継子のも敵視されている気がする。とはいえ敬すべき上司であることには変わりないので、無礼を働くわけにもいかない。運が悪いとしか言いようのない邂逅に、はすっかり怯え切ってしまっていた。
「こ、殺さないでください」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
「ひっ」
思わず頓珍漢なことを口にしたに、実弥はイライラと足を踏み鳴らす。けれどの予想に反して実弥は掴みかかってくることもなく、ただの手元をじっと見下ろしていた。
「……?」
「…………」
「……お、おはぎ、召し上がりますか?」
「……おう」
案外静かに頷いた実弥に、はおはぎを皿ごと献上する。「馬鹿かテメェは」と舌打ちをした実弥は、おはぎが幾つも乗った皿ではなくの手にあった一個だけを奪うように受け取った。
「ガキから食いモン奪るほど落ちぶれちゃいねェよ」
「も、申し訳ありません……」
「……チャンはおはぎが好きなのかよ」
どすんとの隣に腰を下ろした実弥は、ひと口でおはぎを半分ほど食べてしまう。少し雰囲気が柔らかくなった気のする実弥に、は目を輝かせて頷いたのだった。
「は、はい、好きです……! とても好きです」
「ふーん……アイツの継子のくせに話がわかるじゃねェか」
「義勇さま、優しいひとですよ?」
「なんでそこだけ吃らねェんだよ、やっぱりムカつくやつだなァ」
「ひえっ」
実弥の機嫌を損ねたと思ったは、反射的におはぎを差し出す。暫し沈黙した実弥は、それを受け取って舌打ちをした。
「……今日はこれで勘弁してやる」
「あ、ありがとうございます」
「チッ……」
剣呑なようで穏やかな時間が、まったりと過ぎていく。この後を迎えに来た義勇が「年下にたかるのはどうなんだ」などと発言して実弥と取っ組み合いになることなど知らず、ふたりはひと時の平穏を享受するのだった。
190410