毎度のことながら中々にすごい光景だな、と義勇は感嘆の息を吐く。襖を開けると、布団のあるべき場所にこんもりとした義勇の服の山。もこもこと何枚もの義勇の服にくるまって、頬を緩めて眠っている。抑制剤でフェロモンの放出は抑えられているが、本能的な行動はどうしようもないらしい。もっとも、のその行動に愛しさを覚えこそすれ、嫌な気はしないのだが。口下手なは、行動で好意を示すタイプだけれど。こうもわかりやすく慕情を示されるというのも、擽ったくはあるが嬉しくもある。義勇はの番にはなれないベータだから、なおさらそう思うのかもしれなかった。
「……、起きれるか」
 服の山から、そっとを抱き起こして呼びかける。ややあって薄く目を開いたは、義勇の匂いを求めるようにぽす、と胸に顔を埋めた。発情期で寝起きということもあり、理性が薄くなっているのだろう。ぐりぐりと義勇の胸に頭を押し付けて、すんすんと匂いを嗅いでいる。日頃から犬とは言われているが、こうしていると本当に仔犬を飼っているかのようだ。しばらくはの好きなようにさせながら、ぽんぽんと背中を叩く。意識が少しはっきりとしてきた頃合いを見て、ゼリー飲料を差し出した。
「飲めるか」
「……ぅ、」
 どこかぼんやりとした目で差し出されたゼリー飲料を受け取ったは、飲むはずのそれを抱えてまた義勇に抱き着いてしまう。「こら」と軽く窘めての手からゼリー飲料を取り上げた義勇は、キャップを開けての口元に近付けた。頬を軽く掴んで、薄く開いた口に飲み口を挿し込む。ちゅ、と小さな音を立ててゼリーを吸い上げたに、安堵の息を吐いた。普段は聞き分けがよく身の回りのこともしっかりとしているだが、発情期の間は幼い子どものようで。それを疎むことなどないが、義勇が仕事で家を空けている間家にひとりで置いておくのが心配になる。ちうちうとゼリー飲料を飲んでいくの体は、元より華奢ではあるが。発情期の間は特にほとんど何も食べられなくなってしまうから、折れてしまいそうで怖くなる。判断力も鈍っていて、義勇以外の人間に対してはひたすら距離をとってどこかに篭ろうとしてしまうし、義勇にはずっとくっついていたがる。義勇がアルファなら、いっそ番にしてしまって安定させてやることもできたのだろうが。現実として義勇はアルファ性でもオメガ性でもなく、ただオメガの性に振り回されるを支えてやることしかできない。それでもは義勇が好きだと全身で訴えてくれるから、ベータ性であることに不安など抱きようもなかった。
「……
「ん、」
 ちろりと指に舌を這わされて、背筋がぞわりと震える。窘めるように呼んではみるものの、強く止める気がないのだから滑稽でもある。かぷり、と義勇の指を咥えて、ちゅうっと吸い付いて。「だめ?」とでも言うかのように、上目遣いで小さく首を傾げる。抑制剤を飲んでいるとはいえ、義勇が傍にいては理性が危ういのだろう。とろんと潤んだ瞳と、赤く上気している頬。欲情の滲む瞳で見つめられて、じりじりと義勇の理性も焼き付きそうになる。指から口を離させて、寝かしつけてやるべきだとはわかっていたが。もう一本指を挿し込んで、舌を撫でる。嬉しそうに喉を鳴らしたに、理性は呆気なく焼き切れた。
 
200314
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