ぷにぷにと、頬をつついて遊ぶ。いつもなら指を逆に曲げてへし折ろうとしてくるだけれど、今日は機嫌がいいのか童磨のしたいようにさせてくれていた。
「ねえちゃん、今日は天気がいいね」
「…………」
「こんな日は一緒にお外に出かけるのがいいと思うんだけど、どうかな?」
普段のならば、誘っても無視をする。ほんの少し機嫌が良ければ、「一人で行けばいい」と返事をしてくれる。今日はの機嫌がいいようだから、嫌そうな顔くらいは見られるかもしれない。「ちゃんが行かないなら俺もここにいるよ」と返事をするつもりでいた童磨は、小さな唇が開いて紡いだ言葉にぱちりと目を瞬いた。
「……行く」
「……えっ、いいの?」
「別に童磨は来なくてもいい」
「ううん、行くよ、一緒に行く。ちょっとびっくりしただけだよ」
「……ちゃんと外に出ないと、童磨みたいな大人になる」
「うん? ああそっか、ちゃんは俺のことを心配してくれているんだね!」
突飛な結論に、は自ら火に飛び込んでいく蛾を見るような目を向けたけれど。戸籍と童磨の認識上彼の「お嫁さん」であるを抱き上げて、童磨はその柔らかい頬に頬擦りをする。たちまち頭突きを食らって止めさせられたが、童磨はにこにことを抱えたままぐるぐると回った。
「どこに行きたい? ちゃん」
「童磨のいないところ」
「それは無理な話だなあ」
しれっと、微塵も逃がす気などないことを答えると胸にどむっと二度目の頭突きが入る。日々威力を増していく頭突きにの健やかな成長を感じ微笑ましく思うものの、童磨はよしよしとの頭を撫でて落ち着かせる。左手をそっと握って、その薬指の指輪に口付けを落とした。
「死がふたりを分かつとも、俺たちは一緒だからね」
「……死んだらそこで諦めてくれたらいいのに」
「その程度で諦めたりしないよ」
今日は良い日だなあ、と童磨はを抱えたまま部屋の外へと向かう。が童磨を見てくれて、言葉を交わしてくれる。それだけでこんなにも幸せだと、童磨は頬を緩めたのだった。
200320