じめじめと、この国の夏というものはどうにも湿気が多い。茹だるような暑さのなか、日陰の縁側で冷たい木の床にぺたりと伏せる。少しでも涼を感じたかったのだろう、実弥の甚平を着たは床と触れ合う面積を僅かにでも広げようかとするかのようにだらりと手足を投げ出している。こんな犬を夏によく見るな、と棒アイスを齧りながら、実弥は団扇でぱたぱたとを扇いでやった。
「……さねみさん」
「暑ぃな」
「あい……」
 溶けた返事で実弥に同意しながらも、胡座をかいた実弥の膝にのそのそとよじ登る。柄違いの甚平の生地に心地良さそうに頬を擦り寄せると、実弥の太腿に頭を預けて目を瞑った。実弥も、暑いと言いながらもひっつくをどかそうとはしない。どうにも暑さに弱いらしいが夏に溶けた犬のようになるのは面白くもあったし、汗ばんだ額に風を送ってやるのも嫌いではなかった。義勇の前では決して見せなかっただろう脱力しきった姿に、口の端が吊り上がる。赤らんだ頬を実弥の硬い太腿に押し付けて気持ち良さそうに口を薄く開けているに、実弥の表情も緩んだ。見る者が見れば我が目を疑うであろう実弥の表情を、ぼんやりと夢うつつのは知らない。団扇の優しい風と実弥の体温にぺったりと甘えながら、もう温くなってしまった木の心地良さに身を預けていた。
(明日は氷水入れた桶でも出すかァ)
 縁側で、ふたり並んで座って冷たい水に足を突っ込んで。よく冷えた西瓜があれば、はもっと喜ぶだろう。日が落ちて空が橙になったら、ひぐらしの鳴いている中のんびりと歩いて一緒に西瓜を買いに行こう。汗ばんだ手でも、と手を繋ぐのは気にならない。今日、明日とと過ごすことを考えるのは、悪くない心持ちだった。否、柄でもないことを言うのなら、こういうことに安らぎを感じているのだろう。呑気な寝顔を見下ろして、咥えていた棒アイスを小さな口に突っ込んでやる。ぴゃっと冷たさに驚いて起きたにクッと笑うと、意趣返しのつもりかはむうっと棒アイスに齧り付いて大きなひと口を食べてから実弥に寄越す。の手首を掴んで棒アイスを口元に寄せた実弥は、がぶりと残りのアイスを齧り取った。残った持ち手を捨てに行こうとするが、が引っ付いていて立ち上がれない。「ちょっと捨ててくるだけだろォ」と言って軽く腰を浮かせると、は不明瞭に唸りながらずりずりと実弥に引き摺られた。
「仕方ねェなァ」
「……ぅ、」
 行くぞ、と立ち上がるとも実弥の腰に腕を回したまま這うように立つ。実弥の背中に頭を埋めて、実弥に合わせてぺたぺたと歩いて。こんなに甘えただったことは、一緒に暮らし始めてから知った。実弥だけの知る、の気を抜いた姿。これからも、実弥だけのものだ。台所についたら新しい棒アイスを食べさせてやろうと、口の端を吊り上げる。こんなにを甘やかすことができるのもまた、実弥だけだった。
 
200320
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