動物もの
「ぅ、ぐすっ……」
「…………」
「ありがどうございまず……ッ」
 液晶の画面を前にボロボロと大泣きするに、義勇はそっとタオルを差し出してやる。案外がこういった感動モノの映画に涙脆いことは知っていたから、事前に準備はしていたのだが。見事に涙腺を崩壊させたの目元を優しく拭いながら、頭を胸に抱き寄せてぽんぽんと撫でてやる。ずびずびと鼻を啜りながら、は口を開いた。
「よがっだでずね……ベイリー……!」
「ああ、そうだな」
 やはりも犬の感性に近いのだろうか、と微笑ましさ半分と好奇心半分に義勇はを見下ろす。「お前も五回生まれ変わっても俺を見つけてくれそうだ」と冗談を言うと、「あだりまえでずっ」と少し叱られてしまったのだった。

 ホラー
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 隣のは、真顔で画面を見ている。その肩は少しも強ばっていないし、緊張もしていない。驚かされるシーンでも、大きな音や光にビクッと肩は揺れるものの、そういった反射以外でははびっくりしないようで。おどろおどろしい顔面が画面いっぱいに映されても、じゃがりこをポリポリと呑気に食べ進めながら画面をじっと見ていた。
「…………」
「……あんまり面白くないですね?」
「……ああ」
 決して、が「きゃー」と怖がって義勇に抱き着いてくる展開を期待したわけではないが。物理的な脅威には臆病なは、しかし日本的なホラー映画の精神攻撃の怖さは理解できないらしい。に抱き着かれなくて右腕が寂しいなどと思いたくなかったから、義勇はに身を寄せたのだった。

 洋画によくある意外と過激な濡れ場
「…………」
「…………」
 最早、義勇もも画面を見ていない。はおろおろもじもじと狼狽えて、何でもないように表情を取り繕いながらも視線を画面から外して泳がせて。義勇はそんなの様子を眺めることの方が映画よりよほど面白かったから、のほんのり赤い頬をじっと観察していた。
『――、……っ、』
「…………」
 テレビから聞こえてくる生々しい声や息遣いに、はますます縮こまって落ち着かなさそうに視線を彷徨わせる。義勇の様子を窺うようにちらりと視線を向けたは、義勇とがっつり視線が合ってピャッと飛び上がった。ずっと自分が見られていたことを知り、顔を両手で覆って俯いてしまう。真っ赤に染まった耳に顔を近付け、義勇はふっと息を吹きかけた。
「ひゃっ!?」
「……
「ふぁいッ……!?」
「どうしてそんなに顔が赤いんだ」
「……そ、それは、ええと、」
 囁くような声に、は身を震わせる。そっとの手を掴んで顔から外させると、はほとんど泣きそうな目で義勇を見上げていた。
「何をそんなに恥ずかしがっているのか、教えてくれないか」
「ぅ、あ、」
「……想像したのか?」
 白々しく問いながら、そっと首筋を撫でる。それだけで可愛らしい声を上げたに、口端が吊り上がるのを自覚した。
「それとも、思い出したのか? ……俺としているときのことを」
「……ど……、どっちも、です……!」
「そうか……」
 ゆっくりと、をソファの上に押し倒す。画面の中では、既に行為が盛り上がっていたけれど。器用にリモコンを見ないまま操作して画面を消した義勇は、濡れた目で不安半分期待半分に見上げてくるにふっと笑みを浮かべる。真っ赤な耳をかぷりと食むと、ふにゃふにゃの悲鳴がの喉から漏れたのだった。
 
200328
雪冠さんとの会話で生まれたネタです。
BACK