もふもふ。その髪の束に手を伸ばしたのは、好奇心だ。一緒に寝たり、身支度をしたり、風呂を共にするようになったり。距離の近い時間を過ごすことが増えて、義勇に触れることが増えた。髪だって結うこともあれば切ることもある。けれど、何のためでもなくただ触れたくてこの髪に触れるのは初めてだ。おそるおそる手を伸ばすには気付いているだろうに、義勇は黙って目を閉じていた。
「……ふふ」
 少しごわついた髪は、けものの尻尾を思わせる。もふもふと手で触れて、指を通して。少しだけ勇気をだして、思い切って鼻先を埋めてみる。すんすんと匂いを嗅ぐと、胸の中が安心で満たされた。
「楽しいか」
「はっ、はい……!」
 淡々と問われて、義勇の背中にしがみつく形になっていたはぴしっと背筋を正す。くるりと振り向いた義勇は、をぎゅっと抱き寄せて頭の上に顎を乗せる。そしてそのまま、微動だにもしなくなってしまった。
「ぎ、義勇さま……?」
 抱き込まれたには、義勇の隊服の黒しか見えない。背中に回された腕は力が入っていないように思えたがが身動ぎするとぎゅうっと力が強くなって、離れるなという意図を察したは大人しく義勇の腕の中で縮こまる。の髪の感触を確かめるように時折頬擦りをする義勇がを解放したのは、炭治郎が元気よく訪ねてきてようやくのことだった。
 
190415
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