「今日からあなたにお仕えします」
 年端もいかない子どもである義勇に跪いて、頭を垂れたのは綺麗な少女だった。黒いスーツもネクタイも似合わないのに、かっちりとしたそれらを纏って傅く。おろおろと助けを求めるように義勇が見上げると、二人の様子を見守っていた産屋敷は穏やかに微笑んで口を開く。
「義勇は柱だからね。この子が、今日から義勇を守ってくれる」
「守る……?」
「そう、義勇は生身の人間だから。銃やナイフでも、簡単に死んでしまう。そうならないために、この子が……が、義勇を守るんだよ」
?」
「はい、義勇さま。と申します」
 は、今日からずっと義勇を守ってくれるのだという。そのためだけに、生きるのだと。幼いためにその言葉の意味する歪みを理解しきらなかった義勇だが、それでも覚えた違和感に首を傾げて。けれど、顔を上げたの瞳の天色に目を奪われて息を呑む。この綺麗な天色が、義勇のものになると告げられて心臓がどきりと跳ねた。さらりと揺れる黒髪も、白くて細い指も、澄んだ優しい声も、全部義勇のものなのだという。義勇よりはずっと大きいけれど、同い年の人間と比べれば小さいであろう体躯。この存在を丸ごと所有していいのだと言われて、義勇は戸惑いながらもどきどきと高鳴る心臓を押さえた。
「……綺麗」
「気に入ったのなら良かった。二人が仲良くしてくれたら、僕も嬉しいよ」
「はい、お館様……ありがとうございます」
 柱という存在になって最初に与えられたのは、綺麗な少女だった。隣にいてくれる存在を与えられて真っ先に考えたのは、と何をして遊ぼうかということで。は鬼ごっこが好きだろうか、それとも屋内で遊ぶのが好きだろうか。頼んだら、本を読み聞かせてくれるだろうか。は義勇のものだというから、一緒に遊ぶことをお願いしたら聞いてくれるだろう。頬を赤く染めながら、義勇はの手を取る。少し驚いたように目を瞬いたは、けれどすぐに表情を和らげて微笑んでくれた。
「一緒に遊ぼう、
「はい、義勇さま」
 手を引いて駆け出すと、は義勇の手を握り返してついて来てくれる。それが無性に嬉しくて、義勇は意味もなく自分に与えられた区画の中をと一緒にしばらく駆け回ったのだった。
 
200427
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