は、護衛者というらしい。義勇の傍に常に控えて、義勇を守ってくれる。子どもの義勇には自身の「柱」という役目もその危険も、護衛の意味もまだよく解っていなくて。柱になってこの施設に連れて来られてずっと、広い区画でぽつんと寂しく過ごしていたから、傍にいてくれる存在ができたことがただただ嬉しかった。最初こそ綺麗すぎるの、あまり動かない表情に不安になったこともあったけれど。それがの普通で、感情が無いわけではないとわかったから不安や遠慮は溶けるように消えていった。は義勇と楽しそうに遊んでくれるし、優しい目で義勇を見てくれる。くすぐったいほど丁寧な手付きで義勇の髪を梳かして結んでくれるし、柱としての訓練が終わって飛び付くと柔らかいタオルで包み込んで汗を拭ってくれた。歌や手遊びを知らないことには驚いたけれど、自分が教えてあげられるのだと思えば妙に得意な気持ちになれて嬉しかった。本の読み聞かせを頼めば、嫌な顔ひとつせず頷いてくれる。勉強は別に好きでも嫌いでもなかったけれど、の柔らかい膝の上で優しい声に耳を傾けると、不思議とどんなに難しい内容もするすると覚えられた。こんなに綺麗で優しい女の子が、義勇だけのものなのだという。それは何だか、みんなに自慢してしまいたいような、大事に仕舞っておきたいような、正反対の変な気持ちを義勇に抱かせた。
「、そんなところで寝たら体を痛くするよ」
「護衛者ですから、大丈夫です」
ひとつだけ困ったのが、は寝るときも義勇の護衛だからとスーツ姿のまま壁にもたれかかって寝ることで。どの柱と護衛者もそうしているとは言うけれど、女の子をそんなところで寝かせるのは可哀想で嫌だった。けれど、はどんなにお願いしても自分の部屋で寝ようとしない。押し問答をしているうちに護衛者には「自分の部屋」など無いことを知って、義勇は驚きと申し訳なさで俯いた。けれど、と顔を上げて義勇は決心する。
「なら、一緒に寝よう、」
「……えっ、」
「お願いじゃなくて命令だから、『ですが』とか『なりません』とかは駄目だよ」
「……は、はい……」
始めての命令は、何ともどうしようもないことで。命令でなければ絶対に受け入れなかったであろうは、おずおずと義勇のベッドに近付いた。寝るときにスーツは息苦しいだろうからと寝間着を持ってくるように言ったけれど、はスーツしか持っていないのだという。もう驚いていいのやら呆れていいのやらわからなくなった義勇は、クローゼットの中身をひっくり返しての着られそうな服を探した。サイズを間違えて支給されたぶかぶかのTシャツだけが、何とかでも着れそうで。おろおろと申し訳なさそうにするにまた「命令」だと言って着替えさせるが、義勇は自分の命令を少しだけ後悔する羽目になった。
「し、失礼します……」
「う、うん……」
ぎりぎりおしりを隠す程度の丈のTシャツから、すらりと伸びる綺麗な脚。日頃黒いスラックスに覆われている脚が惜しげもなく晒されていて、思わずまじまじと見てしまう。義勇がスーツはダメだと言ったせいで、下は着替えがないのに脱いでしまったのだろう。とても丈の短いワンピースのようなTシャツだけの姿に、心臓がどきどきとうるさい。「お見苦しいものを、すみません」と縮こまるだったが、見苦しいどころかその逆で。「やっぱり床で」と言い出しかねないをベッドに引っ張り込むと、は「柔らかい、」と静かに驚いて目を丸くしていた。マットレスの柔らかさも、シーツのすべすべとした感触も、知らなかったのだという。いつも義勇のベッドを綺麗に整えてくれるがそれの心地良さを知らないのが何だかとても嫌で、義勇は頬を膨らませた。
「これから毎日、一緒に寝よう」
「ご命令、ですか……?」
「うん、命令だよ」
「……ありがとうございます、義勇さま」
眉を下げて笑うに、ニコニコと笑い返す。ベッドで寝たこともないなんて、ひどい話だと思う。の手足はすらりと細くて、それなのに柔らかくて気持ちいい。ぎゅっといつものように甘えて抱き着くと、はおずおずと躊躇いがちに義勇の体を包み込んでくれた。いつもかっちりと着込んでいるスーツがないから、柔らかい感触がわかりやすい。きちんとした寝間着も用意してあげたいと思いつつも、この感触は手放し難かった。
200428