『花の呼吸も蟲の呼吸も、元は水の呼吸から派生してるんだよ』
カナヲにそう教えられたは、今日はどこか嬉しそうにしていた。雰囲気というか、纏う空気がはずいぶんわかりやすい。表情に乏しいとはいえ、義勇から見ればよほど感情豊かに映った。それがに抱く感情ゆえの気付きなのだと、義勇は自覚していないが。
「呼吸の起源が同じだと、嬉しいのか」
周囲が期待しているほど、義勇とは以心伝心ではない。単に、互いにきちんと関わろうとしているから知っているだけだ。それは誰でも同じで、現ににきちんと向き合っていなかった頃の義勇ならが嬉しそうなことにさえ気付かなかっただろう。まともに顔さえ見られず前をすたすた歩いていた頃は、きっと。今はの瞳の揺れさえ見逃さないほど、じっと見つめている。ふわりと花びらが揺れるように表情を綻ばせたは、義勇の問いに「はい!」と元気よく頷いた。
「なんだか、親戚みたいで」
「親戚か」
「義勇さまも、炭治郎くんたちも……水の呼吸の人は、かぞく、みたいで」
だから、同じ流れを汲む呼吸の使い手たちはまるで親戚のようで嬉しいと。無邪気に笑うに愛しさと切なさがこみ上げて、義勇は思わずのまるい頭を撫でた。突然の義勇の行動にどぎまぎとした様子を見せながらも、は本当に嬉しそうに含羞む。を家族の記憶すらない天涯孤独の身にしてしまったのは義勇だというのに、それを知らないは義勇たちが家族だと笑うのだ。カナヲやアオイ、しのぶたちに呼吸の繋がりという縁を見出して、それが幸福だと喜ぶ。そんな小さなことに幸せを感じられる感性を愛おしんでやればいいのか、そんな境遇にした自分を責めればいいのかわからなくて。
「義勇さま?」
ぎゅっと、抱き締めて小さな体を腕の中に囲い込む。「俺がお前の家族だ」と、言えない自分の臆病さを恥じた。
201019