「義勇さま……?」
 庭に出たまま帰ってこない義勇を案じたがひょこっと顔を出すと、低木の茂みの陰に義勇がしゃがみ込んでいて。途方に暮れたような表情でを見上げる義勇の髪が、低木の枝に絡まってしまっていた。経緯はまったくわからないがこのせいで往生していたのかと、は慌てて義勇に駆け寄った。
「義勇さま、大丈夫ですか」
「悪い、
 自分で解こうとして、余計に絡まってしまったらしく中々に悲惨なことになっていた。義勇のことだから植木を無為に痛めるのを嫌ったのだろう。けれど自分の髪を切ってでもさっさと抜け出しそうだと思っていたばかりに、は「枝を少し切りますね」と義勇の後ろに回りながら内心首を傾げた。義勇曰く、猫が木から降りられなくなっているところを助けたはいいものの、動物に嫌われる義勇にその猫ももれなく大暴れしたらしい。顔面や手を盛大にひっかかれ、髪を引っ張られ。暴風のように猫が去っていったあと、低木に髪が絡まってしまったことに気付いたらしい。もう少し早く様子を見にくればよかったと、はしゅんと肩を落とした。
「髪を、なるべく切らないようにがんばります……!」
「ああ、頼む」
 切れても構わない、とは言わずに義勇はが割烹着から取り出した鋏を見遣る。
「切れたらお前は嫌なんだろう」
「……は、はい!」
 雑に髪を切ろうとして、何故かが手を切ってしまった顛末を義勇は思い出す。両手をぐっと握り締めて頬を赤らめたに、また手を切らなければいいがと義勇は思った。義勇にとって自身の身なりはさほど重要なものではないが、が大切にしてくれているのなら雑に扱うまいと思う。一生懸命義勇の髪を解くに温かな愛しさを感じて、義勇は自らも気付かないうちに柔らかい表情を浮かべていた。
 
190417
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