※妄想と捏造で行間を補完しているパロディ

 
あの冨岡が弟子を取ったらしい。その噂は、彼岸と此岸の狭間に生きる者たちの間を瞬く間に駆け巡った。不健康なまでに白い肌と、その青白さに見合った冷たいまでの麗貌。鎖鎌を手にした、寡黙な死神。職業柄他者に敬遠されがちではあるが、本人の誤解を招きやすい言動がそれに拍車をかけていた。孤独に粛々と職務を遂行するばかりの、百年単位でぼっちの死神。そんな彼の後ろに、近頃ひょこひょこと小さいのがついて回っている。その少女が死神見習いなのだと聞いて口をぽかんと開けたのは、冨岡義勇を知る者全てと言っても過言ではないだろう。
「義勇さまが、新しい人生をくださったんです」
 人狼の兄妹に、少女は乏しい表情筋で精一杯の微笑みを浮かべていた。義勇の知己である炭治郎と禰豆子に、というその死神見習いは下にも置かぬほどの歓待ぶりを示す。それほどに、は義勇に全身全霊で感謝と慕情を表していた。聞けば、は純粋な化外ではないらしい。死神である義勇が魂を回収した、とある人間の子ども。その生前の境遇があまりにも悲惨であるがゆえに、義勇はを哀れんで死神としての生を与えたらしかった。決して人に好かれる存在ではないのに、死神にされたことをは少しも恨んでいない。それどころか、義勇に関わるもの全てを愛するほどの感謝を捧げている。生まれついての人外である炭治郎にはの苦労も、それゆえの義勇への感謝も本当の意味では理解できない。それでも、を見ていればその深い慕情は匂いを嗅がずとも理解できるほどだった。
、ここにいたのか」
 そしての想いは、決して一方通行ではないらしい。珍しく焦りにも似た表情を浮かべて現れた義勇は、その白すぎる肌に血の色を巡らせていて。血の巡りが速くなるほどにのことを探し回っていたのだとわかって、炭治郎と禰豆子は顔を見合わせた。のんびりとした様子で義勇に受け答えすると、眉を顰めて「独りでふらふらするな」とを諭す義勇。ここは義勇が拠点にしている、いわば縄張りであるが。そんな安全地帯でさえ、義勇はから目を離したくないらしい。元人間の死神見習いが他の化外や妖魔に目をつけられることを心配して、義勇はの傍を常に離れないらしかった。この人にもこんな一面があったのか、と炭治郎は目をぱちくりとさせる。もその白すぎる不健康な肌を淡く色付かせて、目に見えて幸福そうだ。命を奪う者である証の黒装束も鎌も、今だけは驚くほど不釣り合いに思える。
(これ、報告していいのだろうか)
 実のところ炭治郎は、ここのところ高位の人外たちの集まりを欠席し続けている義勇の様子を見て来いと言われてやって来たのだが。どうやらこの「見習い」にかかりきりでいたいがために、義勇は集まりに不参加でいるらしい。堪忍袋の緒が切れかけていた約数名の顔を思い出し、うーんと悩むものの。
「馬に蹴られると言うしなぁ」
「う!」
 新婚さながらの空気感に、邪魔をするのもはばかられる。二人には届いていない小さな呟きには、禰豆子が然りと言うように元気に頷いてくれたのだった。
 
210603
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