「……起きれるか、
 しゃべらなくていい、と伝えてあるのに返事をしようとするを押し留めて、そっと抱き起こす。義勇が触れたときにびくりと震えたのは、昨日までの数日間で形成されてしまった反射だろう。この数日、義勇はに拷問に耐える訓練を課していて。思いつく限りのあらゆる最低の状況を想定して、の心身に苦痛を与え続けた。申し訳なさそうに俯くの頭を撫でて「いい、気にするな」と告げる。本当に、つらいはずだ。葛湯を匙に掬って口に含ませると、青ざめていた顔に少し赤みが差す。ふにゃりと笑って義勇を見上げたは、そっと義勇の手を握ってから「好きです」と指文字で伝えた。あんな地獄のような数日を強いても、はまだ義勇を好きでいてくれるのか。恐ろしいほどの純情に、義勇はどうやって応えたらいいのかわからない。ただそれでも、代わると言ったしのぶや宇髄たちに任せずに自分の手でに苦痛を強いたのは、責任感だけではないという自覚はあった。片腕での背中を抱えて支えながら、もう一方の手で給餌のようなそれを続ける。小さな体を、義勇の手で傷付けた。いつもの鍛錬のようにの得るものはなく、ただ傷付けるためだけに傷付けた。本当は指文字でだって喋らせたくはない、その指だって義勇が骨を丁寧に折って、爪を剥がしたのだ。喉だって痛いだろう、窒息しないように、喉が潰れないように、それでもただ痛くて苦しいように首を絞めもした。が死に尋常ではない恐怖を抱いていることを誰よりもわかっていて、その恐怖さえ利用しての心を痛めつけた。こうして笑いかけてもらえるのが、不思議なくらいに。
(それでも、俺以外の誰にも、)
 こんなことを他の誰にも、させる気はない。他の誰にも、の心にも体にも危害を加えさせはしない。の怯えに触れていいのは義勇だけだ。義勇が自分の我儘で継子にしたから、はこんな訓練を受けなければならないのだ。義勇のせいだから、義勇が自らの手でやらなければならない。にばかり苦痛を押し付けて、自分が手を下す辛苦から逃げるわけにはいかない。のことが大切だからこそ、義勇がやらなければならなかった。
「よく堪えた、
「……、」
「お前は……弱いが、強い」
 はくはくと声を出さずに口を動かすの言葉を読み取って、義勇はぎゅっとを抱き締める。傷に響いたかもしれないが、はぎゅうっと義勇をきつく抱き返した。『大丈夫』だと笑うのそれは、蛮勇ではない。震える体を抱き締めて、こんな訓練が役に立たないことを願う。どうしたって普通の恋仲のようにはいられないことを、少しだけ口惜しく思ってしまったことが耐え難かった。
 
190426
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