「風のオッサンってさ」
そう金髪の子どもが呼ぶのが聞こえたが、実弥とて所構わず噛み付くわけではない。今は稽古の合間に僅かに与えた休み時間だ。実弥にしてみれば不要な休憩だが、休ませてやらねばなるまい。まあガキから見ればオッサンだろうと、つまるところどうでもよかった、はずだった。
「ちゃんと何かあったの?」
聞こえてきた名前は、どうにも無視できない相手のもので。途端に、先程の呼称を訂正させたくなる。そう思うものの今出て行って「オッサン」という単語を訂正させるなど、狭量そのものの振る舞いだ。認めたくはないが、は厭戦的な義勇の影響か実弥がしがちな粗暴な振る舞いを嫌うところがある。大人の余裕を持たなければと、実弥は障子の陰でいらいらと足を踏み鳴らしながら二人の会話を聞くことにした。
「何か、あったというわけでも……」
「でもあのオッサン異常だよ! ちゃんにやたら当たりが強いじゃん!」
「元々、嫌われてるんだと思う……たぶん」
「なんで!?」
「義勇さまと、仲良くないみたいで……」
「いや、あの人と仲良い人いる?」
「わ、わたしがいます」
「あっソウダネ……」
そういう話じゃねェんだよ、そう叫び出したい気持ちを抑えて実弥は自身の髪をわしゃわしゃとかき回す。オッサン呼びを訂正しろォ、という心の念が伝わったのか、が遠慮がちに善逸を窘めた。
「あの、実弥様は、玄弥くんとそこまで歳が離れてないし……『おっさん』は……」
「え? そ、そっか、ちゃんは優しいね」
「実弥様がおじさんだと、義勇さまもおじさんに、なっちゃう……」
「……うん、そうだね!」
ぶちりと、血管の切れる音がした。義勇さま、義勇さまと、はいつもそればかりだ。結局冨岡か、と怒りが溢れるのを感じる。
「ヒッ」
通りすがりの隊員が、悪鬼のような形相の実弥を見て気絶した。それを庭に蹴り出して、実弥は「休憩は終わりだァ!!」と八つ当たりのように叫ぶ。とりあえずと金髪は集中的にぶん殴ろうと、そう決意した実弥であった。
190507