「…………」
どうして自分はにまっすぐ視線を向けてもらえないのだろうか。実弥がそのことをようやく疑問に思えたのは、臆病なを怖がらせないように話しかけようと試行錯誤する中でのことだった。はビビりだが、真面目で誠実だから話している相手の顔をできるだけまっすぐ見ようとする。宇髄や玄弥のように実弥より背の高い相手でもその首を痛めそうなほど見上げているのだから、身長差が原因というわけでもないだろう。ではどうして実弥は視線を逸らされるのか。一度気になりだすと疎外感というものはついて回るもので、とうとう実弥はその腕を掴まえて問いかけたのだった。
「なんでこっち見ねェんだ」
「あっ、う、その……」
「あァ?」
「……実弥様……胸元が……」
とても言いづらそうに、がうろうろと視線をさ迷わせる。その頬はほんのりと赤く色付いていて、実弥は予想外の答えに呆気に取られた。胸元。確かに実弥は隊服の胸元を開け放っているが、まさか男の素肌が直視できないとでも言うのだろうか。言ってみればに一番近い異性であるところの義勇は、隊服を着崩していないし露出もほとんど無いが。
「……照れてんのかよォ」
「はい……」
申し訳ありません、とは顔を真っ赤にして俯く。身長差のせいで、目の前に開けっぴろげの胸元があるのが気恥しいらしい。男性隊員が蜜璃の胸元を直視できないのと同じかと思えば、そう悪い気もしなかった。
「慣れろ」
ふと思いつくままに、の後頭部をガッと掴んで胸元に押し付ける。「ひぇ」と、か細い悲鳴が上がったのは聞かなかったことにした。実弥の鍛えられた筋肉にふにりと当たる頬の感触が存外気に入ってもちもちと押し付けていると、の顔が発熱したように熱くなっていく。
「チャンは初だなァ?」
それはそれは悪い顔をして、実弥は今にも泣きそうなを見下ろす。の危機を察知した義勇が駆け付けるまで、あと数秒というところだった。
190522