ぷくー、と頬を膨らませるのでがぶりと噛んだ。そうすればなお一層不服気に頬を膨らませるものだから、「何が不満だァ」と問えばはぽこぽこと怒りながら噛まれた傷を指した。
「さ、実弥さま、いっぱい噛むので、痛いんです!」
「そいつは悪かったなァ」
「わ、悪く思ってないです、ぜったい」
 ここも、と首や指の噛み跡を順番に指していくだが、必死の訴えに熱が入って隊服の襟を開けてまで傷を実弥に見せようとする。にやにやと笑う実弥にぷくっとむくれたは、「こっちもです……!」と鎖骨や踝まで晒してくれた。黒い詰襟の上着を脱いで白いスタンドカラーのシャツになったに、実弥は頬杖をついて問いかける。
「それで? 他にはどこにあるんだよ」
「二の腕とか、胸元とか、太腿とか……」
 頬を膨らませたままシャツの裾を捲り上げただったが、そこでようやくハッとしたように気付いてぴたりと動きを止める。ぷしゅうと頬の空気が抜けて、いそいそと脱ぎかけている服を戻そうとするが実弥がそれを許すはずもなく。ガッと腕を掴まれて、は実弥をおそるおそる見上げた。
「あのう、実弥さま……」
「なんだァ?」
「服を着直すので、は、離していただいても、」
「反省してほしいんだろォ? ちゃんと全部見るべきだよなァ」
「い、いえ、もう良いです、」
「舐めれば善くなンだろ」
「ひぇ……!?」
 がばりと押し倒して、白いシャツを剥ぐように脱がせる。明るいところで見ればなるほど確かに呆れるほどの噛み跡が散らばっていて、それが全て自分の残した跡だと思えば気分が良かった。白い肌に映える赤に、べろりと舌を這わせる。唾つけときゃ治る、という言葉を実践してみるかと、実弥は丁寧に噛み跡をひとつひとつ舐めてなぞっていく。既にぴくぴくと震えて泣きそうなに、嗜虐心を煽られて。これは今日も噛み跡が増えるなと、実弥はどこに跡を残すかじっくりとの肌を見下ろして思案するのだった。
 
190530
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