「私ばっかり、義勇さまのこと、好きな気がするんです」
 ぷちぷちと花占いをしながら、姉弟子は頬を膨らませる。その様子はまさに恋する少女のそれで可愛らしかったが、炭治郎はの言葉に引っかかりを覚えて首を傾げた。
「義勇さん、さんのこと大好きですよね?」
「……そう、見えますか……?」
「はい、とても」
 いわく、が手を握ったり頬に触れたりしても表情を変えない義勇はのように恋情を抱いていないのではないかと不安になるらしい。は義勇に触れられるだけで動悸がして、汗も出てしまって、死んでしまいそうなほどの幸せに狼狽えてしまうのに。義勇はいつも涼やかな表情のままで、落ち着いた様子での頭を撫でるのだ。恋人というよりも、子ども扱いされている気がする。大切にされている自覚はあったから不満ではなかったが、不安ではあった。
「恋仲でいさせてくれるのも、優しさだったらどうしよう、って……私は嫉妬したり、みっともないところばかりで、」
さん……」
「こんな子どもっぽいままだから、子どもみたいに思われるんだって、わかってはいるんですけど、」
 ぷちぷちぷちと、地面に散らばっていく花弁。その行方を視線で追いながらも炭治郎はに声をかけるが、小さい肩はどんどんしょんぼりと沈んでいく。その肩をとんとんと叩いたのは、炭治郎ではなく。

「……ぎ、義勇さま……!?」
 慌てふためくの手から、ぽろりと花が落ちる。あわあわと花を拾い上げようとしたの手を掴んで、義勇は口を開いた。
「俺は優しくない」
「えあっ」
「優しくないし、嫉妬もする」
 少なくとも、どうしてが不安を口にしたのが自分ではなく炭治郎の前なのかと思うくらいには。そう告げてじっと見下ろす義勇の表情は相変わらずの無表情に思えるけれど、ゆら、と瞳に揺れた色は確かににも見えて。ぼふっと音が聞こえそうなほどの勢いで真っ赤になったと、その頬を隠すように手を当てた義勇に炭治郎は「それでは俺はこれで!」と挨拶をしてそそくさとその場を立ち去る。少なくとも義勇さんの方が嫉妬深そうだな、と炭治郎は去り際に思ったのだった。
 
190607
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