「六月だから結婚しよう、ちゃん」
「お前は頭がおかしい」
いつものように求愛しに行けば、心底汚らわしいものを見るような目で見られた。の方がよほど小さいのに、この目をするにはいつも見下されているような気持ちになる。それでもそれが心地良いと思うのは、確かに今この瞬間の表情を形作っているという自覚があるからだった。
「ちゃんは白無垢がいい? それともウェディングドレスがいい? もちろん両方でも良いけれど」
「…………」
無言で防犯ブザーを握り締めたが、全力で走り出す。けたたましい音を立てて鳴り響く防犯ブザーは、確かあの忌々しい保護者へと連絡を入れる機能もついていたはずだ。今日も逃げられてしまったなあと扇を口元に当てる童磨は、が落としていった傘を拾い上げた。
「届けてあげなきゃ」
シンデレラと言うには、彼女は「家族」に十分に愛されている。そして彼女にとっての王子様は、その家族だということは知っていた。ならば自分は悪い魔法使いだろうかと、くすくすと笑う。くだらない例え話さえ愉快に思えるのは、きっとそれがだからだった。
190617