――古ぼけたカンテラは、彼らの最期を映し出す。ここにはいない『あなた』を、『わたし』は探し続けている。
「新しいハンターが来たって?」
 弁護士の言葉に、納棺師はちらりと視線を向けて頷いた。情報収集のためとはいえ話しかける相手を間違えた気もするが、新入りのハンターとゲームをした中で一番彼にとって「問題が無い」のが納棺師だったのだ。医師も泥棒も、弁護士にとっては積極的に話しかけたい相手ではない。オフェンスか納棺師かという選択肢であれば、弁護士が会話を望むのは後者だろう。オフェンスの感覚的な話し方は、どうにも彼の肌には合わない。
「どんな能力だった? 姿や特徴は?」
「……うるさかった」
「うるさい? 叫ぶのか」
「会えばわかります」
 マスクに隠れた口でぼそりと呟き、納棺師は席を立つ。やはり人選ミスだったかと思いつつ、弁護士は黙って納棺師を見送った。

 うるさかった、その言葉の意味を弁護士はすぐに思い知る。何しろゲームが開始されたその瞬間から、ハンターの泣き叫ぶ声がマップに響き渡っているのだ。普段は暗く静かな湖景村を明るく照らし上げるほどあちこちで燃え盛っている炎に触れると、服に燃え移った炎が自らの居場所を明かしてしまう。けれど半狂乱の泣き声が常に響いているおかげで、ハンターの位置もおおよそは把握できた。一度子どものような姿がちらりと見えたが、距離のあるうちに物陰に隠れて。これなら大したことはないと、炎を大きく迂回しながらも努めて冷静に暗号機を目指す。けれど次の瞬間、ふっと世界が闇に呑まれた。
「……っ!?」
 カチッと、どこか聞き慣れたような音がした。先ほどまでの轟々と燃え盛る炎と泣き喚く声の喧騒から一転、まるでスイッチが切られたように静寂と暗闇が世界を覆う。かろうじて手の届く範囲はぎりぎり視認できるが、まさに一寸先は闇という状態である。どうにか見えた足元からして、場所が変わったわけではないらしい。近くにあるはずの暗号機に辿り着くべく歩を進めた弁護士は、ぼすんと何かにぶつかった。
「ッ!!」
 目を凝らす前に、ガツンと側頭部に衝撃が走る。咄嗟に走り出そうとするが、周りが見えないことで障害物に足を取られ躓く。ざり、と聞こえたのが足音だと理解する前に、もう一度殴られて地に伏した。暗闇の中で風船に括られ、椅子に押し付けられる。縛り付けられる前に見えたのは、妙に青ざめた男の顔だった。
 
190628
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