――わたしたちは、順番に灯りを持っていました。
姉を亡くしひとりぼっちになった少年は、その陰鬱で寡黙な性情から村中に疎まれていた。誰も近付かない灯台に、いつの間にか子どもが一人増えて。村人たちは、ますます彼らを疎んだ。
――今日はわたし、明日はあなた。
カンテラを手に持ち楽しそうに灯台への道を歩く少女と、どこか心配そうに見守りながら後をついていく青年。毎日交互にカンテラを持って、彼らは灯台へと歩く。
――こんな日々が幸せだった。
変わることのない日々を。嫌われていても、単調な毎日でも、家族との暮らしが幸福だ。
――そうしてあなたは帰ってこなかった。
今日はわたしの番だった。でもあなたはカンテラを持って行ってしまった。風が強いから、波が高いから。危ないから、ひとりで。
――責任を取れ。
『村人たちはわたしを怒鳴りつけました。灯りを失くした責任を取れと。わたしに油をかけて、火をつけました。わたしはきっと、よく燃えたのでしょう』
――灯台はここに。
『村中を焼き落とした火が、あなたの灯台です。どうか帰ってきてください』
強風の日に失火により、とある小さな漁村が全焼。生き残った村人たちにも見捨てられたその村で、灯台は主の帰りを待ち続けている。
190628