――野犬に思えた。
灯台守の少年は、浜辺に流れ着いていた少女を拾う。他者との関わりを好まない少年は、しかしその少女を養育することに決めた。
――灯台守の給金は高くはない。
それでも、ふたりで慎ましく生きるには十分だった。干物をひと切れ渡すと、そのまま返してくる。最終的に半分に割って、可笑しくて笑い合いながらふたりで食べた。
――こんな日々が幸せだった。
灯台への道は足場が悪い。ただ歩くだけなのに毎日楽しそうな少女が足を踏み外さないよう、青年は注意深く彼女の足元を見ていた。
――違える。
その日彼は彼女を置いていった。今日は彼女が持つはずだったカンテラを持って、ひとり灯台へと向かう。嵐がすぐそこまで来ている。
――置いていってしまった。
何が起きたのかわからない、一瞬の出来事だった。最後は真っ暗闇だった。波に攫われて沈んだのだと、果たして自分は理解しただろうか。
――ようこそ灯台守様。
廃村の浜辺に打ち上げられたカンテラは、骨董商の手に渡る。荘園の主が彼らに求めた役割は、インテリアなどではない。
190628