これはダメだな、とイソップは地面を這いずりながら思う。既に仲間たちは皆脱落し、自分も今殴られて地に伏している。真っ暗闇の中で殴られて一人きりというのは、存外堪えるものらしい。諦めたくはなかったが、風船に括られる感覚にせめてもがけるだけもがこうと決意した。
「……?」
しばらく進んだところでどさりと下ろされ、イソップは痛む頭を抱えながらも内心首を傾げる。怪訝そうに見上げた義勇の表情は読めなかったが、ふと触れた鉄の感触にハッとする。どうやらこのハンターはハッチからイソップを逃がしてくれるつもりでいるらしい。ハンターがそういった行動をとることは稀にあるが、少なくともこの寡黙で陰鬱な男がそうしたことは今までない。どういうつもりかと暗闇で目を凝らすイソップの肩を、義勇はぐっと押した。
「お前はに優しくした」
ハッチに落ちるイソップの耳に、静かな声が届く。今回だけだと、水底でくぐもったような声が落ちたのだった。
190703