「七夕です、義勇さん」
「……何か食べたいものでもあるのか?」
 七夕にゆかりのある食べ物はあっただろうかと、義勇は首を捻らせる。彼岸といえばおはぎ、正月といえば餅、ひな祭りといえばあられで冬至といえばかぼちゃを食べるのがだ。およそにとって季節の催し物とは食べることを楽しむものであったと思っていたのだが、どうやら違うらしい。ぷくっと頬を膨らませたは、「こっちです……」と小さな笹を指した。
「鱗滝さんが、笹を分けてくれたんです」
「……短冊か」
「あと、そうめんと七夕ゼリーも」
「やっぱり食べ物だな」
 珍しくからかうような調子の義勇に、ぷくっと更にの頬が膨らむ。その頬をつつくとぷしゅうと呆気なく空気が抜けて、義勇はの手から赤い短冊を受け取った。
はもう書いたのか」
「はい、書きました」
 何を書いたのか、何の気なしに見ようとするとさっと隠される。おはぎがいっぱい食べれますようにとか、そういう願いを隠したいのかもしれないと義勇は見当違いに乙女心を思い遣る。家内安全とさらりと短冊に書きつけた義勇は、それを笹に括りつけた。
「今日はそうめんか」
「そうめんです、流します」
「流すのか」
「鱗滝さんがくれました」
 くるくると、小さな範囲で円状に流れる流しそうめんの機械を鱗滝がくれたらしい。どことなく楽しげなを見て、が楽しいのならいいかと義勇は茶の間へと向かう。
 ――来年も再来年も、ずっと、義勇さんと一緒に七夕を迎えられますように。
 の青い短冊が、窓からの風でかさりと揺れたのだった。
 
190708
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