は小さくて可愛いな」
 それは、錆兎の口癖のようなものだった。を膝に抱えるとき、頭を撫で回すとき、手を繋いで歩くとき、錆兎は決まり文句のようにそう言うのだ。それに不満があるわけではないのだが、小さいと言われるときは何かしら触れられるときだという条件付けがの中で成されるほどだ。思わず錆兎に頭を預けるように首を傾けると、ぱちりと目を瞬いた錆兎はふっと笑っての頭を撫でた。今のは単にその言葉を口にしただけだと気付いて、の顔が朱に染まる。自分から撫でてもらうことを強請ったようで恥ずかしかったけれど、それでも錆兎に撫でてもらうのは好きだ。真っ赤な顔できゅっと目を閉じながらも心地良さそうに錆兎の手を享受するを見て、錆兎の表情も柔らかくほころぶ。
は小さくて、可愛い」
 頬をむにむにと触る錆兎に、はおずおずと口を開く。
「その、錆兎さま……」
「どうした?」
「わ、わたし、大きくなりたいです」
「? そうか」
「……お、大きくなったら、もう、撫でてもらえない、ですか……?」
 の問いかけに、錆兎は虚をつかれたような顔をする。もじもじと隊服の袖を握って赤い顔をするを、錆兎は思わずぎゅっと抱き寄せた。
「撫でる。小さくても大きくても中くらいでも、は可愛い」
「じゃ、じゃあ、大きくなります……!」
「ああ、安心して大きくなれ」
 ぎゅう、と抱き返してきたの頭を撫でて、錆兎は優しい笑顔を浮かべる。前髪越しに額に口付けを落とした錆兎に、は含羞んで背伸びをし口付けを返したのだった。
 
190725
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