「そういえば、義勇さん」
パンを買いに来た義勇に、炭治郎はふと問いかける。トングを握った義勇は、きょとんと首を傾げて炭治郎を見下ろした。
「義勇さんはバレンタインにチョコをいっぱいもらってますけど、全部義勇さんが食べてるんですか?」
「いや……ほとんどが食べている」
「義勇さん、甘いものはお嫌いでしたっけ?」
「好き嫌いというよりも、が妬く」
妬く。その言葉を噛み砕くのに思わず数秒を要してしまったが、さらりと出てきた義勇の言葉を理解してどうしてか炭治郎の頬が熱くなる。もくもくとパンをトレーに積んでいく義勇に、オウム返しのように「妬くんですか」と尋ねてしまった。
「ああ」
「す、少し意外です」
「そうか」
も義勇も、いつも表情は淡々としているように見えるから。義勇宛てのチョコをほとんど食べてしまうほどヤキモチを妬くというのも、それを自覚している義勇というのも少し意外な気がした。
「……ハムスターに似ている」
「え?」
「頬をむっと膨らませて、口いっぱいにチョコを詰め込むんだ、は」
「義勇さん、もしかして……」
が妬くのを、可愛いと思っている節があるのではなかろうか。それを口に出して問うた炭治郎に、義勇はさっと目を逸らした。
「義勇さん、さんに嫌われても知りませんよ」
「……嫌われない」
「確かにそうですけど」
のお気に入りのあんぱんを、炭治郎は義勇の持つトレーに乗せる。しばし沈黙した義勇は、あんぱんを更にもう二つトレーに乗せたのだった。
190726