「それ、冨岡さんの趣味ですか?」
「……趣味じゃない」
口枷を嵌められた幼子を指さして、冗談半分にしのぶが問うた。残りの半分は本気のドン引きである。その幼女が鬼であることは知っているし、当然しのぶは彼女の存在をなんの葛藤もなく受容したわけではない。それでも竈門兄妹とは違い「冨岡義勇が口枷をした幼女を連れ歩く」というのはなかなかに事件性を感じさせる絵面であることを義勇はわかっているのだろうか。わかっていないのだろうな、きっと任務に出た先で幼女を拐かしていると勘違いされる日も遠くないのだろうなとしのぶはひとり頷いたのだった。
「そういえば、さんのことをどうやって連れ歩いているんですか?」
義勇は見たところ炭治郎のように箱を持ち歩いていたりはしない。純粋な疑問として尋ねれば、義勇は懐から竹筒を取り出した。
「陽の射す時間はこれに入っている」
「……え?」
いくら鬼が体の大きさを変えれると言っても、到底人の入る大きさではない。規格外の戸惑いに、しのぶは思わず素の反応を返す。とてとてと寄ってきたを抱えて、義勇は口を開いた。
「竹筒に入れて、懐に仕舞っている」
「……そ、そうですか」
実のところは血鬼術で水のような液体に変化できるため可能なことなのだが、義勇の少ない言葉でしのぶにそれがわかるはずもなく。すすすと遠ざかっていったしのぶに首を傾げつつも、義勇は胸に擦り寄るの頭をぽすぽすと撫でたのだった。
190901