「…………」
 の言葉を聞いた錆兎は、ぴたりと動きを止めた。を膝の上に抱きかかえて頬や頭を撫でていてくれた手が、すっと離れてしまう。そのまま真顔でを見下ろす錆兎に、きょとんとは首を傾げた。もしかしたら聞こえなかったのかもしれないと、羞恥を抱きつつももう一度その言葉を口にする。
「きょ、今日可愛い下着なんでふっ」
 言い切る前に、錆兎の手にぱしっと口を塞がれた。大きな手に覆われて、もごもごと言葉が遮られる。真っ直ぐにを見つめて真剣な顔をした錆兎の頬は、真っ赤に染まっていた。
、頼むから」
「?」
「そういう可愛いことを言う前には心の準備をさせてくれ」
 理性が保たないと、視線を逸らしつつ言う。年下のはずなのによりよほどしっかりしている錆兎の、可愛らしい一面を見た気がして。何だか嬉しくなって、学ラン姿の錆兎をぎゅっと抱き締める。わたわたと慌てる錆兎の頭を抱え込んで「可愛い」と撫で回していると、急に錆兎が静かに黙り込んでしまった。不思議に思って顔を覗き込もうとした瞬間、腕を取られてがばりと押し倒される。真顔でを見下ろしていた錆兎は、ふいに不敵な笑みを浮かべた。
「俺よりの方が可愛らしい」
「え、えっと、」
「そんなに煽るなら、可愛がられるのは覚悟の上なんだろう?」
 ひえっと、情けない声が上がる。どうやら錆兎は、に可愛いと言われたのがお気に召さなかったらしい。瞬きする間にの上着を脱がせてしまった錆兎は、淡い色合いの下着を指でなぞって「可愛いな」と口角を吊り上げる。その一言だけで心臓が止まってしまいそうなのに、錆兎の気が済むまで許されそうにない。くいっと下着の紐を指先で持ち上げた錆兎の笑みは、可愛いなどという形容詞からは程遠かったのだった。
 
190910
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