は犬のような子どもだと、実弥は思っていたのだが。ときどき猫にも見えると、口にはしないものの思っている。
「……さねみさま、」
「眠ィなら寝ろよなァ」
晩酌に付き合わせて、酒が入ったはすりすりと実弥に引っ付いている。寝ろとは口にしたものの、実のところは満更でもない。普段はあれだけ臆病で恥ずかしがり屋のが、実弥にぴったりとくっついてはさらけ出された胸筋に頬をすり寄せているのだ。酒で血行の良くなったの頬は温かく、甘えるようにぐりぐりと頭を押し付けるは可愛らしいの一言に尽きる。このまま実弥を枕に寝てしまっても構わなかったが、実弥はの気が緩んでいるのをいいことに頭やら頬やらを撫で回した。
「ふふ、」
くすぐったそうに、締まりのない顔で控えめに笑う。首筋を指の背でくすぐるように撫でると、日向の猫のように喉を鳴らす。甘えたなその様子はまたたびを前にした猫そのもので、にとってのまたたびが自分だとするならばそれは実弥にとって気分のいいことだった。
「さねみさま、ぎゅってしてください」
こんなふうに、普段は絶対に口に出さないような甘えまで素直に言う。の望み通り少しきついくらいに抱き締めると、それはもう幸せそうな顔をしては実弥を抱き返す。小さいが跨っている程度で負担になるような鍛え方はしておらず、実弥は膝の上にを乗せて存分に甘えさせるのを楽しんでいた。もちもちとした頬の感触が当たるのも、ぽかぽかとした手のひらが無邪気にぺちぺちと実弥の腹筋や胸筋に触れては感嘆するのも面白く、実弥は酔ったの好きなようにさせる。むらむらとした欲が湧かないわけではなかったが、「実弥さまのすけべ……」と頬を膨らませるよりは甘えたのを見ている方が楽しかった。実弥がの髪を撫で回すと、お返しとばかりにも実弥の頭に手を伸ばす。色気のない睦み合いも、悪くはない。覚えていれば無礼がどうだと次の日いっぱい土下座をしてしまうから、記憶に残らないほどに酔わせている。それを知った伊黒は本気で引いた顔をしていたが、こうでもしなければが素直に実弥に甘えるなど百年に一度もないだろう。は血の繋がった家族もなく、誰かに養われていたから甘えを言い出せないでいたのだろう。実弥が甘やかすことのできた弟妹は、今はもういない。これが傷の舐め合いだとは、思いたくもないが。それでも確かに満たされた心の奥は、温もりに満ちていた。
190921