守る、助ける、治す――そんな目を、していた。
気に食わないと、憎たらしいと、猗窩座は戻ってきた記憶に呆然としながらも目の前の鬼狩りを睨みつける。あの、水柱。義勇という名だ。記憶の戻った今ならばわかる、あの目は弱い人間の目だ。守るだの、助けるだの、治すだの、大切な者と明日を迎えることを信じて疑わない目。鬼狩りならば、その命の儚さは自覚していよう。それなのに、あの底の無い瞳には確かに明日への希望も揺らめいていた。
(どんなに信じたところで、)
成す術もなく奪われる。何の役にも立てずに、置いていかれる。愛するものを守ることも、助けることも、治すこともできない。それが弱者だと、彼は知っていた。それでも、義勇の目は燃えている。次代の命を繋ぐ覚悟、憎い鬼を討ち果たす決意。そして、『誰か』を守る意思。
(どうせお前も失う)
守れず、約束を果たせず。ただひとり、置いていかれる。自分が死んでしまうべきだったという後悔に胸を引きちぎられそうになりながら、孤独に夜をさまようのだ。それでもきっとこの男は、鬼に身を窶すことなどないのだろう。自らの弱さをまざまざと突き付けられて、なおのこと憎らしかった。
190930