冨岡義勇、と画面に表示された文字を見ているだけでの頬はへにゃりと緩む。「高校生になったのだから必要だろう」と義勇が買い与えてくれたスマホに、初めて登録された名前。今どき携帯端末を持つのが高校生なのは遅いだとかアドレス帳よりSNSの方が隆盛しているだとかはには関わりのないことで、ただの「いちばん」が義勇だったことが嬉しかった。
「…………」
 ふと、画面に義勇の番号を表示させてみる。ただの十一桁の数字なのに、義勇の名前と並べるだけでまるできらきらと光っているようにすら思えた。何度も何度も視線でなぞって、足りない頭でも忘れないようにと叩き込む。この数字だって義勇の一部だ、教科書に並んでいる数式とはまるで違って見えた。
「……家にいるのにかけたら、変かな……」
 きっと義勇は気にしない。スマホを持ったばかりだから試しにかけてみたかったのだろうと、さして理由を問うこともなく電話を取ってくれるだろう。こんなことで義勇を煩わせるのは気が引けるが、これは許される範疇の甘えであると思いたい。義勇はいつも、もっと甘えていいと言ってくれるから。だから、ちょっとだけ。ほんの少しだけ、許されてもいいだろうか。うんうんと躊躇いながら両手でスマホを抱えて十数分。その姿を義勇にじっと見られていることなど知らぬまま、はころころと布団の上で悩み続けるのだった。
 
191005
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