子どものように、興味のままにの手は義勇の頬に伸びる。ぺたぺたと、形を確かめるように触って。体温を愛おしむように、指の腹が優しく肌を撫でる。ぐっと顔を近付けて義勇の目元に触れたは、ふっと花が綻ぶように微笑んだ。
「義勇さまです」
「ああ」
改めて噛み締めるように呟いた、の言葉に頷く。その手を取って、柔らかな額に唇を寄せた。くすくすとくすぐったそうに笑うが、愛おしい。その頬に触れると、義勇の温もりに安堵したように目を細めた。は、あまり目が良くない。鬼との戦闘で側頭部を強く殴られて以来、見えにくくなったのだそうだ。臆病なわりに、人と話すときは距離が近いのはそのためだ。表情、目に浮かぶ感情。口元の輪郭。そういったものを見落とさないために、は顔を近付ける。心を許している義勇に対してはそれが特に顕著で、はいつも義勇にくっついていたがった。
「義勇さま、あの、好きです」
内緒話をするように、が義勇の耳元に口を寄せて囁く。何よりも大切な宝物を差し出すように、は優しく笑った。その笑みに胸がいっぱいになって、自分もだと答える代わりにをぎゅっと強く抱き締める。どこにも行ってしまわぬように、大切なものを抱え込むように。義勇の腕の中に抱え込まれて、心底幸せそうに目を細める。本当に愛おしくて、手放したくなくて、気付けば義勇もに触れている。さらりとした髪を撫でて、頬を包み込んで、首筋をくすぐって。幸せだと、心底そう思う。ふたりきりの小さな世界は、危ういくらいに幸福だった。
200128