ガリ、と金平糖を口の中で噛み砕く。小さくて可愛らしい星をもうひとつ手に取って、もう鋭くはない爪の先でつついた。
「金平糖みたいな、女の子だったね」
 踏み潰したらぱきりと割れてしまう、脆く小さな甘い星。口の中でふたつに砕くと、断面のふちに引っかけた舌が少しだけ切れた。首を切断するための刃には足りず、さりとてその甘さは毒にもなれず。奪われ喰われて、それでもただ喉に滑り落ちることを良しとはしない。いじらしく、愛らしく。ひと粒では足りないから、瓶に詰めて。大切に、噛み砕いて舐め回す。指先で挟んで潰してしまえる、可愛らしい命だ。
「……会いたいなぁ」
 大切に、腹をさする。童磨はある日、腹から骨を吐いた。教祖として彼を祀り上げていた両親や信者たちは、それを奇跡だとか言って喜び騒いだけれど。その時、彼は「前」の記憶を取り戻した。鬼として生き、虚しく死んだ記憶を。空っぽの生の中で、それでも星に焦がれたことを。
あの日喉の奥から滑り出てきたのは、小さな薬指の骨だった。童磨はその骨に指輪を嵌めて、大切にしまい込んでいる。未だ腹の中のどこかにあるだろう腕は、星のようなあの子の左腕だ。きっとあの子は、運命を探して苦しんでいるに違いない。ここにいるよと、教えてあげたかった。
「きっと見つけてあげるからね」
 あの時は恥ずかしがっていたのか緊張していたのか、名前を教えてくれなかった。あの子の友だちだという意地悪な女の子も、お前などに友だちの名前を教えるものかとにべもなく切り捨てた。だから次会えた時にはきっと、抱き締めて名前を教えてもらおう。自らの左の薬指にある揃いの指輪に口付けを落として、蕩けそうな笑みを浮かべる。今はあの子を食べてあげられないけれど、骨の代わりに金平糖を噛み砕いた。
 
200131
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